公社初の「シニア住宅」を小金井市に建設供給 多世代交流へ「シェアリビング」も初めて設置 〔JKK東京〕🆕

2025年 3月 26日

カーメスト武蔵小金井

シニア住宅を併設したカーメスト武蔵小金井。手前が小金井にし地域包括支援センター

 JKK東京(東京都住宅供給公社)は、小金井市の「小金井本町住宅」の団地再生事業で、新築賃貸住宅「カーメスト武蔵小金井」内にJKK初となる「シニア住宅」を整備した。同住宅はバリアフリー設計とし、見守りサービスを付けて提供するサービスを限定することで、これまで供給してきたサ高住に比べ家賃負担の軽減を図った。また、住民が無料で使用できる「シェアリビング」を設けて世代交流を図るなど、高齢者向け住宅の新たな形を提示している。

市の要望を受けシニア住宅を提案
 小金井本町住宅は最寄り駅であるJR中央線武蔵小金井駅から歩いて約15分、同駅からのバスで約9分の中規模団地である。1960~61年に830戸が建設されたが、老朽化によって一部が建て替えられることになり、2020年からJKKと小金井市が団地のあり方について協議を開始した。

 その中で、同市から示されたのが、同地区の高い高齢化率を反映した「高齢者が安心して暮らせるような福祉施設を整備する」という要望だった。

 JKKではそれを受けて検討を行い、福祉施設だけでなく、「高齢者が低廉な負担で、住み慣れた地域で安心して住み続けられるような団地の建替事業」という構想の下、シニア住宅の建設を提案した。

 さらに、手狭で交通アクセスが良好ではなかった「小金井にし地域包括支援センター」を移設する案も提示。協議の結果、これらの施設・住宅の建設が決まり「小金井本町あんしん住まいプロジェクト」として計画がスタートした。

 第1弾として高齢者福祉施設「本町けやきの杜」が2023年8月にオープンした。第2弾として賃貸住宅「カーメスト武蔵小金井」内のシニア住宅40戸が竣工し、昨年12月から入居者の募集を開始。第3弾では一般住宅棟に併設して建設された地域包括支援センターが今年1月14日から業務を開始している。

配置図04

 同センターの移転により、高齢化率が40%以上の団地住民にとって身近な存在になっただけでなく、センターの目の前にバス停があることから、団地以外の高齢者にとっても来やすくなった。

安価な見守りサービスを採用
 カーメスト武蔵小金井は総戸数244戸で、一般住棟3棟は北向きに凹形の配置となっており、シニア住宅棟は凹の右側の住棟の先端に隣接する形で設けられた。独立した建物となっているのは、緊急時を想定してバルコニーを広めにしていることや、ほとんど段差のない上がり框にするなど、建物の構造が他の住棟と異なるからだ。

 シニア住宅棟の北側には駐車場をはさんで本町けやきの杜がある。同施設は全室個室ユニット型の特養108室とショートステイ(専用12人分と特養の空き室利用)、グループホーム18室で構成されている。同施設の通りをはさんだ東側には、傾斜している土地を生かした都市公園も整備した。

 シニア住宅棟が駐車場に面しているのは、デイサービス・訪問介護などの福祉車両や緊急車両が来た際、高齢者の住戸を訪れやすいからである。

シニア住宅棟01

駐車場に面して建てられたシニア住宅棟(中央手前)

 シニア住宅の間取りは1R(27㎡)と1DK(34㎡)で、それぞれ独居と2人暮らしを想定している。高齢者が自立した生活を送ることができるよう、玄関は扉を引き戸とし、靴を脱ぎ履きする際に腰掛けられるサポートチェアを備え付けた。このいすは、使わない時には折りたたんで壁に収納することで、玄関スペースを広く使うことができる。

 火を使わないIHクッキングヒーターを採用したキッチンは、通常より低い高さとし、車いすのまま作業できるように、シンクの下に足を入れられる空間を設けた。浴室には立ったり座ったりするときや歩行の際の転倒を避けるため、各壁面に手すりを設置。トイレにも立ち座りがしやすいようにL字の大きな手すりを備えている。

 

サポートチェア(オープン時)
サポートチェア(収納時)

シニア住宅の玄関に設けたサポートチェア(左)。使わない時は折りたたんで壁に収納できる

キッチン04
浴室02

シンクの下に足を入れられる空間を設けたキッチン(左)と各壁面に手すりを設置した浴室

 こうした居室設備の仕様は、JKKがこれまで建設してきたサ高住と基本的に同じだが、最大の違いは、サ高住には見守りや健康相談などに対応する常駐のサービススタッフがいるのに対し、シニア住宅にはいないこと。その替わりとなるのが、一般家庭でも使われているアルソックの見守りシステム「HOME ALSOKみまもりサポート」である。

 この見守りシステムは①主装置(コントローラー)②遠隔緊急ボタン③空間センサー(見守り)で構成されている。主装置は、1Rでは居室、1DKではダイニングキッチン、遠隔緊急ボタンはどちらもトイレと浴室の壁面に設置、空間センサーは居室とキッチンの間の天井に取り付けられている。

 主装置にはスピーカーと緊急ボタンがあり、スピーカーを通じて24時間いつでもアルソックと健康相談が行える。何かあった場合は緊急ボタンか遠隔緊急ボタンを押すことでアルソックの警備員が駆けつける。空間センサーは人体などの熱を感知し、センサーによる安否確認に使用する。24時間人の動きがなければ、やはり警備員がやってくる。

 この見守りシステムを採用したことで、サ高住では月額2万~3万円必要なサービス料を十分に低く抑えられ、入居者の負担を大幅に低減できた。なお、シニア住宅には高齢者以外でも入居することができるが、入居には見守りシステムを使用する契約が必須なので、必然的に高齢者や障害者といった見守りが必要な人に限定されると考えられている。

自然に多世代交流を促すシェアリビング
 今回のシニア住宅には、もう1つ特徴的なものとして、やはりJKKが初めて設けたシェアリビングがある。ここにはテレビとソファが置いてあり、「一般賃貸住宅の子どもや若い世代の方も使っていただけるよう、おしゃれな空間になっていて、自然に多世代交流を促すような共用部となっている」(中村洋介・住宅再生事業推進担当係長)。

 多目的に利用できるキッズスペース付きのコミュニティサロン(集会室)も一般住棟にあり、こちらはサークル活動などに使われる。

 なお、一般住棟は3棟あるが、このうち1棟だけは専有部のみで喫煙でき、残りの2棟とシニア棟を含む敷地内は禁煙になっている。また、一般住棟は1DKから3LDKまで5タイプ計204戸あり、そのうち50㎡以上の126戸は、東京都の「東京こどもすくすく住宅認定制度」の「アドバンストモデル」に認定された。

 同制度は居住者の安全性や家事のしやすさなどに配慮されているとともに、子育てしやすい環境づくりのための取り組みを行っている優良な住宅を都が認定するもの。アドバンストモデルは設備などの充実に加え、コミュニティ形成などソフト面も重視したモデルである。

 このコミュニティ形成の促進のため、JKKが4年前に設けたのが「JKK住まいるアシスタント」である。スタッフが各団地を訪問して、入居者の声に耳を傾けるほか、地元行政や団体などと団地の状況を共有し、ニーズを発掘。それを基に交流の場のきっかけとなる活動を提案して、利用者自らが活動を運営できるまで伴走支援するなどコミュニティ活性化に向けた取り組みを展開している。

 小金井本町住宅では、すでに地域包括支援センターの職員にも加わってもらい、毎月第1、第3火曜日に健康サロンを開催している。高齢者福祉施設のけやきの杜でも、認知症カフェと子ども食堂を開いており、新年度には無料学習塾も開設する。 

コミュニティサロン02

サークル活動などに使われるコミュニティサロン

 また、一般住宅・シニア住宅ともに3月から入居が始まっているが、4月中にJKKの主催により、入居者だけでなく、地域の住民も参加できるようなイベントを実施して街開きとすることになっており、その後も団地の活性化と地域交流を促すようないろいろな活動を実施していく。

 今後、 JKKでは シニア住宅を現在設計中の東京都世田谷区の祖師谷住宅に建設する。その後については「行政から非常に高い評価を得ているので、まずは成果を検証していく必要がある」と今野崇・住宅再生事業推進課長は話しており、その結果を受けて拡大方針などを決めていく考えだ。

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