第一興商
第一興商は業務用カラオケ「DAM」の技術を活用した生活総合機能改善機器「DKエルダーシステム」により、高齢者の健康づくりを支援している。コロナ禍で歌うことが控えられている一方、介護施設では同システムの体を使うコンテンツの利用が通常より増えており、その有効性が再認識されている。

DKエルダーシステム
コンテンツを約700種類用意
DKエルダーシステムは「うたと音楽」を活用して、介護予防や機能訓練を継続して行うもの。介護保険制度が始まった2000年の翌年から提供を開始した。「楽しいのがポイント。苦しければ続かない」と営業統括本部エルダー事業開発部の大坪直木部長は強調するように、コンテンツは楽しさを重視して開発している。
同システムの推奨器である「FREE DAM HD」は、業務用通信カラオケの機器と同様に、本体に備わっているタッチパネルで操作が可能で、スピーカーが内蔵されている。カラオケの楽曲も10万曲以上入っているが、カラオケの機械と異なるのは、厚生労働省が定める「総合的な生活機能向上」の柱となる、運動・口腔・認知という3つの機能を維持・向上させるコンテンツが、約700種類ほど搭載されていることだ。
コンテンツは「音楽を使う」「体を使う」「目で観る」「カラオケ・ゲーム」の4項目に分類される。音楽を使うでは、カラオケの歌詞を「パ・タ・カ・ラ」の4文字に置き換えて歌うことで、口腔機能の維持・向上を目指すものや、歌詞のところどころが空欄になっている部分を、思い出しながら歌うものなどがある。大坪部長によると「パ・タ・カ・ラをただ1分間やるのは大変だが、歌になっていると3分でも4分でも言い続けることができる」そうだ。あるいは、体を使うでは、高齢者向け体操の指導で知られる「ごぼう先生」のいすを使った体操や、歌いながら体をゆっくり動かすボイストレーニングなどを提供している。
プログラムの作成を行う「音楽健康指導士」養成
現在、介護施設で2万1000カ所、自治体では3500カ所、その他を入れると合計2万5000カ所で採用されている。使う際は約700種類のコンテンツを利用者の目的や対象に応じて組み合わせ、プログラムを組む。例えば、介護施設では歌いながら体を動かしたり、歌を使って「パ・タ・カ・ラ」をしたりするコンテンツと、カラオケを組み合わせて、1回30分程度の機能訓練やレクリエーションを行う。ただ、カラオケはあくまでも従で、生活総合機能の向上を主目的に導入している施設がほとんだ。
同システムを使う上で重要なのが、コンテンツを組み合わせ、プログラムを作成することであり、それを行うのが「音楽健康指導士(音健士)」である。約700のコンテンツを使いこなし、介護予防の運動やレクリエーションを楽しんで行ってもらうためには、専門的な知識が不可欠なことから、同社が発起人となって一般社団法人日本音楽健康協会を立ち上げ、同協会が認定する民間資格として整備した。

音健士の指導で体を動かす高齢者(イメージ)
音健士はこれまで介護職が取得するケースがほとんどだったが、同社はその対象を広げるため、今年3月から通信教育のユーキャンと連携して育成を始め、すでにこの半年ほどで2800人ほどが受講している。
さらに、介護職だけでなく、歯科衛生士やローカル歌手などを対象に、口腔に特化した指導員に関する有資格制度の創設を計画している。歌手を対象としているのは、地方で活動する歌手は高齢者と交流する機会が多く、コロナ禍の下、同社グループの企画で介護施設の入居者に対し、リモートにより歌を通じてコミュニケーションを図る取り組みなどを行っているからだ。同社としては「歌うことで運動・口腔・認知につながるような活動をしながら、歌唱人口を増やす」(大坪部長)ことも、この活動の狙いとしている。
参加者を増やした自治体の取り組み
現在はコロナ禍の影響で大半の自治体が介護予防事業を休止しているが、第一興商は昨年度、北海道から沖縄までの全国59自治体から事業を受託し、約3600回介護予防事業を開催して数多くの参加者を集めた。ただ、自治体の事業では、女性に比べて男性の参加者が少ないという課題がある。また、公民館のような公的な施設に集まることに抵抗を感じる人もいる。
そうした課題を解決した例として、同社と松本市が行った取り組みがある。同市には地域の福祉拠点である「福祉ひろば」と呼ばれる施設が市内に36カ所ある。同社は介護予防の実証事業を市から受託し、2016年度から男性だけでボイストレーニングを行う「スポーツボイス大学院」を開催した。「チラシもあえて介護予防という言葉を入れずにかっこいいものを作成した」(営業統括本部エルダー事業開発部エルダー企画課の山岸正人課長)結果、多くの男性が集まった。最初はお互いに会話もしない雰囲気だったものの、トレーニングを行っているうちに気心が知れ、最後に市のホールで行った発表会には、家族や知人が駆け付け、大盛況のうちに終了した。
この教室は毎年開催していたが、参加は1度に限られる。そこで、すでに参加した人は、やはり市の事業で音健士の資格を取得することにより、今度は「市民音健士」として、担い手の側に回る仕組みを設けた。同社の支援は最初の3年間で終了し、現在はこうした市民音健士が事業を担って活動している。山岸課長によると、こうした取り組みは健康を維持するだけでなく、孤立しがちな男性高齢者のコミュニティへの参加にも貢献しているという。
一方、公民館のような公的な場所ではなく、民間施設を活用している例としては、同社とつくば市が実施している産官連携モデルがある。同市ではスーパーやカラオケボックス、ドラッグストアなど、市民が日常的に訪れる場所を「通いの場」として「カラオケ体操教室」を開催することで参加者を増やしている。高齢者の介護予防に貢献するだけでなく、場所を提供する民間施設側も、集客にも効果があることから、高齢者・自治体・民間施設のいずれにとってもメリットのある取り組みとなっている。

大坪部長(右)と山岸課長
カラオケのランキングで体操ソフトが上位に
新型コロナウイルスの感染拡大により、高齢者だけでなく多様な年齢層の人たちが集まって活動をすることが難しくなっている中、同社のカラオケのランキングでユニークな集計結果が出た。5月第1週のランキングで、DKエルダーシステムの体操系ソフトが上位にランクインした。休業していたカラオケボックスがあったことを考慮しても、特筆すべきことだ。
4~8月の5カ月のデータでも、体を使うソフトが上位に入っている。これは、介護施設で歌うことや外部から講師を招くことなどが控えられた中で、エルダーシステムを使って体操を行う施設が多かったことを示している。実際、5月は1施設当たりの利用が前年同月比で10%増だった。
このように、介護施設は感染予防として同社のシステムを有効活用しているところが多い一方で、自治体はカラオケや介護予防教室を控えているところが大半だ。通いの場を開催できない、あるいは開催しても行きたくない、という人がいることが課題になっており、同社にはそうした相談が自治体から寄せられている。
その対策の1つとして実施しているのがケーブルテレビを使って教室を開くこと。福岡市や犬山市、岡谷市などで実施している。また、youtubeを使って教室を限定公開しているところもあり、同社としてもyoutubeに「DKELDER CHANNEL」を開設し、コンテンツの紹介や教室の体験動画などを公開している。
そのほか、コロナ禍の影響としては、日本音楽健康協会が全国8エリアで介護施設の職員を対象にコンテンツの説明を行っていたセミナーの休止がある。その対策として、同協会ではオンラインでのセミナーを、11月1日から3月31日まで開催することにした。また、経営が悪化しているデイサービスの経営状況を改善するため、介護予防の計画書作成とグルーピングを自動で行える既存のソフトとDKエルダーシステムを組み合わせ、容易に加算を取得するシステムを提供していくことを同社では考えており、これにより困難な状況にある事業者を支援していく方針だ。
DKエルダーシステムは高齢者を対象にしたものだ。しかし、同社では多世代に向けた施策を講じることが必要だと考えており、将来的には「高齢者と子どもが交流するような取り組みができれば」と大坪部長は考えている。