コニカミノルタ
国が後押しする介護ロボットのうち、最も普及が進んでいるのが見守り機器である。コニカミノルタの「HitomeQ ケアサポート」は見守るだけでなく、データを活用して介護業務を支援する。介護職の効率的な働き方を実現し、ケアの質の向上に貢献している。
新ブランド「HitomeQ」立ち上げ
同社は昨年10月、新たなブランド「HitomeQ(ひとめく)」を立ち上げ、それまで展開してきた見守り機器事業を、介護施設の業務全般を支援する事業へと進化させた。この言葉には「一人ひとりを想い、考え、ひらめくという思いが込められている」とQOLソリューション事業部事業戦

斉藤朋之グループリーダー
略部企画グループの斉藤朋之グループリーダーは話す。HitomeQにはケアサポートシステムのほか、同システムを使いこなすための「ケアディレクター」や「ケアルーペ」などのサービスやツールが設けられている。
ケアサポートシステムは行動分析センサーとケアコール(ナースコール)スイッチ、Wi-Fiのアクセスポイント、システム管理サーバーで構成される。各室の天井に取り付けるセンサーは、夜間でも撮影できる近赤外線カメラとドップラーセンサー、通話装置を内蔵している。ドップラーセンサーは呼吸に伴う胸の動きなどのデータを収集し、睡眠の状態をモニターしたり、閾値を下回ると通知したりする。
スマホを軸に介護業務を変革
システムのコンセプトは「スマートフォンを軸に介護業務を変えていくこと」(斉藤リーダー)。天井に取り付けたセンサーが「離床」「起床」「転倒・転落」といった施設利用者の注意行動を検知すると、介護スタッフのスマートフォンに、画像・動画とともに通知が届く。
スタッフは常にスマートフォンを携帯して介護業務を行っており、通知が来ると画像・動画を見て、訪室するか否かを判断する。通話装置により、声がけのみで済ます場合もある。このように、ケアの判断を行うことで、不必要な訪室を減らせる。実際、スタッフの歩行距離が半減した施設もあるそうだ。

システムの仕組み
スマートフォンにケア記録や申し送り、連絡事項などを入力し、その情報を他のスタッフとリアルタイムに共有することもできる。これにより、情報伝達のために他のスタッフを探し回る時間や、連絡の遅れによる行き違いを削減する。これらのデータはスタッフステーションのシステム管理サーバーにも送られ、一括して管理される。
センサーはカメラを内蔵しているとは思えないほど薄いので、入居者がセンサーを意識することはないという。さらに、入居者のプライバシーを保護するため、介護スタッフは通常、カメラで撮影した動画を見られないようになっており、通知がきた時にだけ注意行動の画像・動画を見ることができる。
転倒が発生した時は、転倒前後1分間の動画をスタッフステーションのシステム管理サーバーで確認して、事故の状況を正確に把握する。転倒事故は虐待を疑われるケースもあるので、動画を入居者の家族に見て理解してもらうことで、スタッフを守ることにもつながる。
ICTを前提とした働き方に
導入を望む施設には、まず厚生労働省の生産性向上ガイドラインに則った業務診断を行い、ヒアリングや観察により施設の課題を分析する。ケアサポートシステムを使うことで、効率化や介護の質が向上することが分かれば、導入することになる。逆に、規模が小さかったり、自立の入居者が多数を占めたりするような施設は、導入のメリットが乏しいため、導入に至らないこともある。
導入が決まれば、システムの施工と並行して、専門トレーナーが介護スタッフ全員に、ケアサポートシステムの操作と運用ルールに関する実践研修を行う。導入後は単にシステムを使ってもらうだけでなく、「ICTを前提としたオペレーションに変えないと効果が得られないため、動き方など、それまでのやり方を全部変えるコンサルティングを行う」(斉藤リーダー)。その一例が夜間巡視をやめること。システムが見守っているので、スタッフが巡視する必要がないからだ。夜勤スタッフはスタッフステーションにいて、何かあった時にはシステム管理サーバーで部屋の状況を確認して対応する。
とはいえ、単に「センサーで見ているから夜間巡視をやめる」と言っても現場は変わらない。そこで、巡視の数分後に入居者が目を覚まし、トイレに行っているという具体的なデータを示すことで、スタッフに納得してもらう。スタッフがよかれと思って訪室し安否確認をしていることが、逆に安眠を妨げていることが分かり、これまでのやり方を変えなければならない、と全員が思うようになることが重要だ。

センサーは薄いので入居者が意識をすることはない
入居者が安眠を確保できるようになると健康状態も改善し、昼間のケアが軽減して、ケアの質の向上につながるという。
ケアディレクターを養成
データをフル活用するためには、データを理解し、それに基づきスタッフに業務の提案を行える能力をもつ人材が必要になる。それがケアディレクターで、同社が開発した職種である。介護職のリーダーに「ティーチング」「コーチング」により研修を行い、ケアディレクターとして養成する。ティーチングでは対面講義とEラーニングにより、業務を続けながら学習してもらう。コーチングでは約2カ月間、同社のメンバーも加わり、データで判明した課題に対し、どう作業を変えていくかを議論して、現場に落とし込むところまでサポートする。その後も「リモートサポート」により継続的に支援を続ける。
しかし、研修を受けたとしても、データそのものを読み解くのは難しい。そこで、同社は入居者やスタッフのデータを分かりやすく可視化するソフト、ケアルーペを開発した。これにより、ケアディレクターは入居者の状態変化やスタッフの対応状況を、容易かつ定量的に把握でき、データに基づいて客観的に判断して、入居者に対する適切なケアにつなげることができる。
同社では2016年から見守り機器を提供してきたものの、「システムが正しく理解されなかったり、通知設定が本当に必要なケースだけに絞り込まれていなかったため、通知が鳴りっぱなしだったりといったことがあった」(斉藤リーダー)という。それらの課題をクリアし使い続けてもらうためには、導入支援から業務支援、組織構築・運用までを提供することが必要と判断し、サービスをここまで拡大した。
こうした取り組みが奏功して導入事例が増えている一方、ICTの活用に尻込みする施設も多い。そこで、ICTを理解してもらうために、隔週ペースでウエブセミナーを開催している。斉藤リーダーは「ケアの質を上げるためにデータを見る時間が増えるのは本末転倒なので、両方のバランスを取りながらデータを生かした事例、従来は当たり前だった働き方を変えることができた事例などをどんどん紹介していきたい」としており、セミナーを通じてICT活用への理解を広めることで、サービスの導入拡大を図っていく考えだ。