技術商社の理経(東京都新宿区)は介護施設向けの誤薬防止アプリケーション「メディアシ」を開発し、6月から提供を開始した。グローリー社のエンジンを利用した顔認証技術と、薬局向け製品などを製造するタカゾノ(大阪府門真市)の分包機を連携することで、介護現場での主要事故の1つである誤薬を、手間をかけずに防止することを可能にした。
自社開発の顔認証技術を活用
1957年創業の理経はIT・エレクトロニクスの専門商社で、システムソリューション、ネットワークソリューション、電子部品及び機器という3つの分野で事業を展開している。
商社なので基本的には国内外のメーカーの製品を顧客に提供したり、組み合わせてソリューションとして提供したりしているが、自社開発も行っており、顔認証システムもその1つだ。
メディアシを担当するAIシステムセールスグループの鈴木利之グループ長によると、この技術を使ってメディアシを開発することになったのは、2年ほど前にタカゾノの販売代理店の方と話をしている中で「高齢者施設では誤薬の問題が結構あり、薬局にいろいろ相談が来ているけれど、その解決に顔認証が使えないか」と言われたのがきっかけだ。
鈴木利之グループ長
介護職員の名札や利用者のリストバンドにQRコードを付けるなど、すでに市場にはQRコードを使って誤薬を防止するシステムがあった。
しかし、「本人確認には生体認証が最も確実で、コスト面を考えると顔認証が最適なこと、介護分野は今後、市場的にも見込めそうだということもあって、トライすることになり、1年半ぐらい前に開発に着手した」(鈴木氏)。
半年ほどで最初のモデルができ、いくつかの高齢者施設で使ってもらいながら改良を重ねて完成させた。
極力手間がかからないシステムに
システムは、薬局側のタカゾノ製の分包機とそのデータをクラウドに上げる中継器、施設側の管理を行うパソコン1台と認証に使うスマホで構成される。スマートフォンはユニットごと、あるいはフロアごとなどに用意する。
「メディアシの利用料は入居者数によって3段階に設定されているので、スマートフォンを何台使用しても料金は変わらない」(鈴木氏)ため、施設側が自由に使用台数を決めることができる。
施設側の準備としては、管理者専用アプリで施設職員と入居者の名前・生年月日・性別を事前に登録する必要がある。ただ、これは理経がエクセルデータで受け取って入力するので、実質的に施設側が行うのは、職員と入居者の顔を撮影・登録するだけだ。
最初につくったモデルでは、もう少し施設側が行う手続きや利用する上でのステップがあったが、試用してもらった施設の職員から「とにかく手間をかけたくない」という声が多かったことから、極力手間をかけずに利用できるシステムとした。
運用については、薬剤師が処方専用のレセプトコンピューターにデータを入れると、分包機から出てくる処方された薬の分包紙に氏名・用法・薬情報などが入ったQRコードが印字される。同時に中継器を介して、クラウドにそのデータが転送され、処理される。
QRコードが印字された分包紙
処理されたデータは施設の管理用パソコンとスマートフォンに送られる。介護職員はスマートフォンで自分の顔認証を行い、分包紙のQRコードを読み込んだ後、利用者の顔認証を行う。入居者と薬の情報が一致していれば、その時点で服用する薬が表示され、服薬を確認したら「確認」ボタンを押して完了する。
利用者の中には顔認証のためにスマートフォンを向けられるのを嫌がる人もいる。そうした場合に対応するため、入居者の名前を再確認することにより、顔認証しなくても利用できる機能を付けた
職員が顔認証を行う
分包紙のQRコードを読み込む
入居者の顔認証を行う
入居者と薬の情報が一致していれば、その時点で服用する薬が表示される
食事形態を考慮し朝・昼・夜の服用時間を重複
薬情報は施設の職員から寄せられた意見で搭載することにした。薬局から何十人分かの薬が処方されて送られてくると、施設では利用者ごとに振り分ける作業がある。薬によっては服用時に気をつけなけなければならないものがあるため、そうしたことをチェックするには薬の情報が必要というのがその理由だ。
用法に関する表示で工夫したのは、朝・昼・夕で一応時間を区切っているものの、ある程度、時間をオーバーラップさせていること。
朝食後に服用する薬については朝から午前11時ぐらいまで、昼食後の場合は午前10時から午後4時ぐらいまで、その後は夕食後となってはいるが、例えば遅い朝食を取る人がいた場合、午前11時で区切ってしまうと、朝食後の薬なのに表示されなくなってしまう。
このため、朝食後と昼食後、昼食後と夕食後の時間を部分的に重ねることで、そうした事態が避けられるようにした。
飲まなかった薬のチェックをする機能もある。頭痛がするので頓服薬を飲ませようとしたら、手が滑って落薬してしまったという時には、見送りというボタンを押す。
そうすると飲ませなかった理由の主だったものが表示され、落薬をチェックする。代わりに別の頓服薬を飲ませたことをチェックすることで、その記録が残ることになる。
見送りの画面。飲ませなかった理由の主だったものが表示される
入居者の顔認証と薬のQRコードが一致しない時のメッセージ
メディアシを導入するメリットを整理すると、施設にとっては介護職員の顔認証と薬のQRコードの読み込み、入居者の顔認証だけで迅速に誤薬防止が行え、複数の職員による確認が不要になる。
また、いつ・誰が・誰に・何を飲ませたか、という服薬介助の情報が管理画面で確認でき、履歴をエクセルデータとして出力することで、そのまま介護記録に転記することができる。既存の介護ソフトウェアと連携させることも可能だ。
分包機とのデータ自動連携が最大の特徴
一方、薬局側にとっては、薬がきちんと処方されているか、パソコンで確認できるとともに、入居者ごとの残薬の確認が行える。専用のラベルプリンターを使うことにより、漢方や湿布薬など分包しない薬についても服薬管理が可能になる。
さらに、タカゾノ製分包機とのデータ自動連携によって、処方薬の一般名・商品名・用法などの情報を入力する必要がなく、この部分が他の誤薬防止ソフトと最も違うところだという。
「最近、他のメーカーも顔認証を取り入れるようになっているため、顔認証自体はそれほど差別化になっていない。タカゾノの分包機とデータ連携を自動的にやっているところがメディアシの最大の特徴」(鈴木氏)。
他社のシステムでは、分包紙が誰のものかは分かるが、いつ飲ませなければならないか、どういう薬が入っているのか、ということについては、1件1件情報を入力しなければならない。データを自動連携することで、そうした手間を省くことができる。
タカゾノ製の分包機と連携しているということは、それ以外の分包機では使えないことを意味している。しかし、分包機には3大メーカーがあり、そのうちタカゾノのシェアは5割弱程度と見られていることから、普及していけば全国的に大きなボリュームになるのは間違いない。
今後については、特別養護老人ホーム・有料老人ホーム・介護老人保健施設の3つをターゲットとして普及を進めていく。病院からも問い合わせがあるが、例えば、点滴の薬にどう対応するかといった課題があるため、ハードルは高そうだ。
また、在宅の高齢者への展開も視野には入っているものの、薬の服用を誰が確認するかという問題が生じるので「それをクリアするのは、次のステージの課題」と鈴木氏は話している。