車いすでの悪路の移動を可能に 簡単装着の補助装置普及へ〔JINRIKI〕🆕

2022年 7月 27日

jinrikitop01

 車いすを使う高齢者や障害者が被災した時、どうしたら迅速に避難できるか。この課題に解答を与えたのが、JINRIKI(長野県箕輪町)の中村正善社長だ。2本の棒を取り付けて介助者が引っ張るだけ、というシンプルなアイデアを、世界で初めて具現化した。ロシアが侵攻したウクライナで活用されたことにより、海外でも知られるようになっている。

2本の棒を装着するだけ
 製品には社名と同じ「JINRIKI」と、簡易装着型の「JINRIKI QUICK」がある。基本的な構造は同じで、2本の棒を車いすの前方にワンタッチで装着し、人力車のように前輪を浮かせて介助者が引く。これにより、これまで困難だった悪路の移動を可能にした。

 違いは、JINRIKIが自分専用の車いすを使う利用頻度の高い人向けの製品であるのに対し、JINRIKI QUICKは複数の人が使用すること。

 JINRIKIでは受け皿となる固定の箱を車いすにボルトで止め、バーをそこに差し込む。バーには簡単に乗り降りできるよう、跳ね上げ機能が付いている。

 一方、JINRIKI QUICKは棒に器具が付いていて、道具を使わずにその場で装着できる。使い回しができるので、災害時や観光地の貸し出し、旅行の時だけ、というような用途で使われる。

 どちらも現時点で、国内で販売されている車いすの約9割に装着できる。販売数としては圧倒的にJINRIKI QUICKが多い。

JINRIKIQUICK02

JINRIKI QUICK

東日本大震災を機に開発
 それにしても、なぜこのような製品を開発しようと思ったのか。そのきっかけは、東日本大震災だという。

 当時、金融システムを開発する東京の会社に勤めていた中村社長は、震災で約2万人が犠牲になり、その多くが高齢者や障害者で、しかもその人たちを助けようとして、ともに犠牲になった非常に多くの人たちがいたことを知った。

 そこで「何かできないか」と思った時にひらめいたのが、車いすを人力車のように引っ張る装置だった。思い立ったら矢も楯もたまらず、震災の1カ月後に会社を辞め、縁あって長野県で会社を立ち上げJINRIKIの開発に取り組んだ。

 アイデアの基になる、車いすの前輪を上げれば速く走れる、ということは「子どもの頃から身に染みて分かっていた」(中村社長)。

 というのは、弟が障害者で車いすを使っていたため、子どもの頃から車いすを押していたからだ。前輪がひっかかって動けない場合は、前輪を持ち上げれば動けることを体験として知っており、そのアイデアを形にしたのが、2本棒で引っ張ることだった。

中村社長02

中村社長

車いすの種類の多さが壁に
 ただ、製品化は難渋した。車いすメーカーは国内に20社、海外には何百社とあり、車いすの種類がありすぎるからだ。

 メーカーによってパイプの太さや角度が異なり、ブレーキの形状も位置も違うことなどから、どの車いすに合わせてどう作ったらいいかが壁となった。同時に、この壁により、このようなシンプルな構造のものがこれまで作られなかったことを悟った。

 「ものづくりを知っていたらやらなかった。ものづくりも福祉も知らない、ずぶの素人だったからこそできた」と中村社長は話す。

 試行錯誤を繰り返した結果、震災からまる2年後の2013年3月11日に製品を発表し、14年3月11日に販売を開始した。

 製品発表に当たっては、簡単に類似製品を作られる恐れがあったため、まず優先権を確保し、その後、世界特許を取得した。

 ちなみに、現在は類似製品が販売されるようになっており、それを受けて来年1月にJIS規格が制定される予定だ。

 製造は長野県内の10社にパーツ製作を依頼し、自社で組み立てている。こうした形にしたのは、いずれ海外展開・大量生産を想定していたことと、被災した福島・宮城のさまざまなメーカーにも作ってもらうことを考えたためだ。

ウクライナ支援で脚光
 知名度がなかったため、当初は月に1~2台しか売れなかった。初めて扱ってくれたのは、消火器メーカー。災害時の高齢者・障害者の避難用として使えないかとの打診があり、防災用品として販売してもらった。

避難訓練02

最初は防災用品として販売された

 すると、それを使った車いすの人たちが、日常使いをしたいと車いすメーカーなどに問い合わるようになり、福祉用品としても受け入れられるようになっている。

 そうした中、思いがけない形により、国内外で製品が知られることになった。ロシアのウクライナ侵攻である。

 ウクライナの惨状を知った中村社長は、クラウドファンディングを利用し、多くの人々の協力を得てウクライナにJINRIKI QUICKを100台寄贈することにした。このことが国内外のメディアで報じられたのである。

 中村社長自ら5月に隣国のポーランドに入り、支援団体に引き渡した。そこからキーウの国立がん研究所やリハビリ施設などに送られて活用されている。

 「第2弾として9月にウクライナを訪れ500台持っていくが、これでは圧倒的に足りない。何万台という要請がきているからだ。ただ、それに対応するには寄付やクラウドファンディングではむり」(中村社長)なことから、国や国際的な民間団体などの支援を期待している。

ウクライナ集合03

ウクライナ支援のため、クラウドファンディングにより第1弾として5月に100台寄贈した

バリアフリーからバリアパスへ
 今後については、まず国内で普及させていく。最初のターゲットとしては、日常生活用具という補助制度が設けられている障害者を想定している。補助の決定は市町村が行うので、それが全国で通るように厚生労働省と協議しているところだ。

 ちなみに長野県では、阿部守一知事が県内の全市町村で補助が得られるようにする方向で取り組んでいるとのこと。

 また、「防災対策基本法が制定され、その中に個別避難計画があるものの、解決方法が見出されていないことが課題となっている」(同)。そこで、その解決策としてJINRIKIを活用することを提案している。

 さらに、さまざまなアウトドア・レジャーで活用してもらうことも見込んでいる。中村社長によれば「バリアフリー対策と環境保護は相反する」という。国立公園や世界遺産では法律上、バリアフリーの工事ができないからだ。

 そもそも長野県の主要な観光資源は雪と山。つまりバリアが観光資源である。その際、バリアをなくすのではなく、越えるという発想に変われば、環境を破壊しなくて済むし、巨額な費用も必要ない。

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さまざまなアウトドア・レジャーでの活用も期待している

 「これこそ究極のバリアフリー対策であり、ユニバーサルツーリズムにもつながる」と中村社長は指摘し、「バリアフリーからバリアパスへ」を提言している。つまり「バリアをなくせないなら越えてしまえ」ということだ。

 今後、さまざまな場面で活用されることに対応するには、量産と大量販売を可能にすることが必要になる。そこで、来年4月に量産・販売体制を完成させる計画で、現在、着々と準備を進めている。

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