帝国データバンクの調査で、無床診療所の休廃業・解散が258件と過去最多ペースで推移しているほか、すでに昨年の通年件数に並んだ倒産の9件と合わせ、267の診療所が休んだり閉じたりしていることが分かった。
6月までに廃業や倒産の累計が250件を超えたのは初めて。このペースが続いた場合、今年は過去最多となった2019年の406を大きく上回る、500以上の診療所が休廃業などを行う可能性があるという。
同社の企業データベースを基に全国の診療所の経営状況を調査したところ、売上高が前年度からマイナスとなった診療所が全体の8割超を占め、減収幅も平均で2割に上っていた。増収となった診療所も1割あったが、多くの診療所で減収を余儀なくされた。
診療科目別にみると、耳鼻咽喉科の減収割合が88.0%と最も高く、次いで小児科や整形外科、内科などとなった。
減収割合が最も高い耳鼻咽喉科や小児科などの診療所では、コロナ対策が徹底されたことで、インフルエンザなどの季節性感染症や風邪の発生が例年に比べて大幅に減少したことが響いた。
3番目に高い整形外科では、学校の休校や部活動の自粛でスポーツでのケガによる受診が減ったほか、外出自粛の影響で交通事故などによる外傷による受診も減少した。
内科でも発熱外来などを除き、高齢患者を中心にいわゆる「コンビニ受診」がコロナ禍で大きく抑制されたほか、通院回数の抑制を目的に長期処方を求める患者が増加し、トータルでの診療報酬減少につながったケースもある。
同社によると、診療所ではこれまで、少子高齢化に伴う医療ニーズの拡大に加えて、美容皮膚など保険診療に依らない自由診療領域での需要も拡大。こうした経営環境もあり、既存の「町のかかりつけ医」に加え、利便性に優れた鉄道駅の近くや、ショッピングモールなど複合商業施設内へのクリニック開業が活発に行われてきた。
自由開業制の下で医師の開業志向は根強く、無床診療所は21年4月時点で約9万7000軒と、10年間で1万軒近く増加。特に東京や大阪など都市部を中心に診療所の開業が相次いでおり、患者の獲得競争が熾烈化している。
一方、診療所経営者で最も多かった年齢は10年前が56歳だったのに対し、今年は66歳と約10歳上昇するなど、高齢化が進行するとともに、診療所も含めた医療業の後継者不在率は73.6%と、全産業平均の65.1%を大きく上回っている。
全体的に経営者の高齢化と後継者問題が深刻となっており、こうした問題を長年抱えていた診療所を中心に、コロナ禍での医業収入減少が後押しとなって廃業を選択した可能性もあるようだ。