厚生労働省の「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムに係る検討会」は3月4日に開催した会合で=写真、報告書案を議論し取りまとめた。この日の会合で構成員から出された意見を反映させた上で、19日に開催される予定の障害者部会に報告する。
報告書案は「はじめに」「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る基本的な事項」「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムを構成する要素」の3つで構成されている。
「はじめに」では、2017年2月の「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書で、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの理念が示され、それ以降、都道府県などで障害福祉計画・医療計画に基づき、同システムの構築の推進を図ってきたとの経緯を記した。
その一方で、同システムを構築する上での実施主体や機関の役割の明確化などの課題が明らかとなったことから、検討会を設置して、今後の方向性や取り組みを報告書として取りまとめたと、検討会と報告書の位置付けを説明した。
前回会合の素案では、厚労省は今後この報告書に基づき、諸制度の見直しや2024年度からの時期医療計画・障害福祉計画への反映、財政的方策なども含め具体的取り組みを検討し、実現を図るべきと結んでいた。
報告書案では、前回会合での構成員からの意見を反映し、関係省庁や省内関係部局と連携を図ることや、入院に関わる制度のあり方、患者の意思決定支援、退院後支援のあり方などについて、別途検討が行われるべきとの文言を追記した。
「普及啓発の推進」を「基本的な事項」に移動
「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る基本的な事項」では、素案は「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの基本的な考え方」「重層的な連携による支援体制の考え方と構築」の2部構成だったが、報告書案は「普及啓発の推進」を加えた3部構成とした。
これは、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築において普及啓発は最も重要な要素の一つ」と記述しているにも関わらず、素案では「普及啓発の推進」の項目が、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムを構成する要素」の最後に置かれていることに対し、複数の構成員から異議が出ていたためだ。
「基本的な考え方」では、精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが安心して自分らしく暮らすことができるよう、重層的な連携による支援体制を構築すること、同システムは「地域共生社会」を実現するための「システム」「仕組み」であり、システムの考え方や実践は地域共生社会の実現に向かっていく上で欠かせないものである、との認識を示した。
また、このシステムは精神障害のある人たちや、地域住民の「地域生活」を基本とするもので、日常生活圏域を基本として、市町村などの基礎自治体を基盤として進める必要があること、システムの基本方針が地域住民、地域の専門職、関係者に共有されることが重要であるとした。
「支援体制の考え方と構築」に関しては、市町村が主体となり、保健所や精神保健福祉センターとの連携を図りつつ、精神科医療機関、その他の医療機関、地域援助事業者、居住支援法人など居住支援関係者、ピアサポーター、意思決定を支援する者などとの重層的な連携による支援体制を構築することを求めた。
一方、システムの構築に当たっては、保健・医療・福祉関係者などによる「協議の場」で協議をしていくことが重要であるが、素案では「協議の場」に関する記述の物足りなさを指摘する意見が構成員から述べられたことから、報告書案ではあり方や具体的な活動などについて詳述した。
「実現すれば世界に誇れるものに」
「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムを構成する要素」では「地域精神保健及び障害福祉」「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムにおける地域精神医療」「住まいの確保と居住支援の充実、居住支援関係者との連携」「つながりのある地域づくりと社会参加の推進」「当事者・ピアサポーター」「精神障害を有する方等の家族」「人材育成」の7つの要素について記している。
このうち、「地域精神保健及び障害福祉」では、市町村での地域精神保健の充実が重要で、特に地域精神保健に関する業務の制度上の位置付けについて検討をする必要があることや、精神障害を持つ人たちが「本人の困りごと」に対して、必要な時に適切な支援を受けることができるよう、精神保健医療福祉に関わる人の連携強化を図る必要性などを指摘している。
会合では、最後に座長の神庭重信・九州大学名誉教授が、報告書の内容について「実現すれば世界に誇れるものになる」と評した。