日本福祉介護情報学会(代表理事・生田正幸関西学院大学大学院教授)は、介護現場スタッフのデジタル化についての意識を調査し、同学会の研究大会でその結果を発表した。
高齢者介護の現場では近年、科学的介護や人材不足対策の旗印のもとデジタル化やDXが推進されている。アウトカム評価やLIFEが導入され、サービスへの影響も指摘される。現場で働くスタッフはこうした動きをどう受け止めているのか、同学会が調査した。
このほど開催された同学会の第24回研究大会(共催・社会福祉法人グループ リガーレ)で発表された調査結果から、一部を抜粋する。
・IT機器を使って行っている「記録や連絡に関する業務」(複数回答)は
サービス提供に関する記録の入力・作成67.2%(常勤80.9%、非常勤49.2%)
スタッフ間の申し送り・事務連絡36.2%(46.9%、22.3%)
業務中のスタッフ間の連絡・調整31.2%(41.3%、18.2%)
・IT機器を使って入力している「記録の種類」(複数回答)
利用者の生活状況や日常の様子62.8%
利用者のバイタル(体温・血圧・体重など)の状況46.4%
申し送り事項・事務連絡44.1%
・IT機器が勤務先の「サービス提供」に与えている「良い影響」(複数回答)
利用者に関する情報の把握や共有が必要な時に手軽に行える29.4%
インターネットの情報検索など情報の入手と活用がスムーズに行える29.2%
・IT機器が勤務先の「運営や管理」に与えている「良い影響」(複数回答)
記録や書類の作成に要する時間や労力が軽減できる35.5%
記録や書類の表示や印字が見やすくなり読みやすい33.0%
興味深いのは「科学的介護」「LIFE」についての結果である。
・「科学的介護」「LIFE」に対する印象(複数回答)
「科学的介護」や「LIFE」という言葉をよく聞く28.6%(常勤40.8%、非常勤13.3%)
何のことかわからない26.3%(15.2%、41.7%)
科学的介護という言葉は知っているが、詳しいことはよくわからない23.4%(27.0%、18.9%)
「科学的介護」や「LIFE」という言葉はあまり聞いたことがない18.7%(14.4%、24.2%)
国の方針なので対応せざるを得ないと思っている16.0%(22.3%、6.8%)
業務や現場の負担が大きい14.2%(20.2%、6.4%)
新しい介護や支援のあり方に向けた意欲的な取り組みだと思っている11.1%(15.2%、5.3%)
科学的介護やLIFEの認知度は意外に低い。生田教授は「常勤と非常勤の認識格差の大きさが注目される。介護現場における常勤と非常勤の立場の違いを象徴する結果ともいえる。広報や研修などの推進に加え、業務への主体的な取り組みや支援のあり方に対する問題意識の醸成など、非常勤の位置づけや現場における立ち位置について検討が必要」と述べ、「LIFEへの理解をさらに推進するには、一般職・担当職や非常勤の理解と認識を広げ、主体的な取り組みを育てる必要がある」と指摘した。
調査結果の概要は2月下旬、全容は3月末に同学会ホームページで公開予定。問い合わせは日本福祉介護情報学会第24回研究学会事務局taikai2022@jissi.jpまで(状況により対応に時間を要する場合もある)。
【調査の概要】
対象…社会福祉連携推進法人第1号「社会福祉法人グループ リガーレ」に加わる5法人で高齢者介護に従事する871人
方法…無記名方式によるインターネット調査
実施期間…2022年11月19日から12月7日
有効回収数…619件(有効回収率71.1%)。
【有効回答619人について】
男女比率…女性が74.2%、男性24.4%
平均年齢(概算)…49.0歳。50~69歳が40.7%を占める
勤務先…特養38.9%、小多機14.9%、地域密着型特養12.8%。施設(入所系)56.1%、施設(通所系)25.5%、訪問系2.9%(生田教授は、訪問系は非常勤スタッフが多いこともあり、回答を得ることが難しかったのではと分析)
就業形態…常勤(無期雇用)55.1%、非常勤(嘱託・パート・アルバイト)42.6%
職位…一般職・担当職73.2%(うち47.9%が常勤、50.1%が非常勤)、主任・ユニットリーダー・サブリーダーなど職場やチームのまとめ役13.6%、管理職6.3%