科学的介護・LIFEの認知度低い 学会調査

2023年 1月 27日

 日本福祉介護情報学会(代表理事・生田正幸関西学院大学大学院教授)は、介護現場スタッフのデジタル化についての意識を調査し、同学会の研究大会でその結果を発表した。 

 高齢者介護の現場では近年、科学的介護や人材不足対策の旗印のもとデジタル化やDXが推進されている。アウトカム評価やLIFEが導入され、サービスへの影響も指摘される。現場で働くスタッフはこうした動きをどう受け止めているのか、同学会が調査した。 

 このほど開催された同学会の第24回研究大会(共催・社会福祉法人グループ リガーレ)で発表された調査結果から、一部を抜粋する。 

 ・IT機器を使って行っている「記録や連絡に関する業務」(複数回答)は
   サービス提供に関する記録の入力・作成67.2%(常勤80.9%、非常勤49.2%)
   スタッフ間の申し送り・事務連絡36.2%(46.9%、22.3%)
   業務中のスタッフ間の連絡・調整31.2%(41.3%、18.2%) 

 ・IT機器を使って入力している「記録の種類」(複数回答)
   利用者の生活状況や日常の様子62.8%
   利用者のバイタル(体温・血圧・体重など)の状況46.4%
   申し送り事項・事務連絡44.1% 

 ・IT機器が勤務先の「サービス提供」に与えている「良い影響」(複数回答)
   利用者に関する情報の把握や共有が必要な時に手軽に行える29.4%
   インターネットの情報検索など情報の入手と活用がスムーズに行える29.2% 

 ・IT機器が勤務先の「運営や管理」に与えている「良い影響」(複数回答)
   記録や書類の作成に要する時間や労力が軽減できる35.5%
   記録や書類の表示や印字が見やすくなり読みやすい33.0% 

 興味深いのは「科学的介護」「LIFE」についての結果である。 

 ・「科学的介護」「LIFE」に対する印象(複数回答)
   「科学的介護」や「LIFE」という言葉をよく聞く28.6%(常勤40.8%、非常勤13.3%)
   何のことかわからない26.3%(15.2%、41.7%)
   科学的介護という言葉は知っているが、詳しいことはよくわからない23.4%(27.0%、18.9%)
   「科学的介護」や「LIFE」という言葉はあまり聞いたことがない18.7%(14.4%、24.2%)
   国の方針なので対応せざるを得ないと思っている16.0%(22.3%、6.8%)
   業務や現場の負担が大きい14.2%(20.2%、6.4%)
   新しい介護や支援のあり方に向けた意欲的な取り組みだと思っている11.1%(15.2%、5.3%) 

 科学的介護やLIFEの認知度は意外に低い。生田教授は「常勤と非常勤の認識格差の大きさが注目される。介護現場における常勤と非常勤の立場の違いを象徴する結果ともいえる。広報や研修などの推進に加え、業務への主体的な取り組みや支援のあり方に対する問題意識の醸成など、非常勤の位置づけや現場における立ち位置について検討が必要」と述べ、「LIFEへの理解をさらに推進するには、一般職・担当職や非常勤の理解と認識を広げ、主体的な取り組みを育てる必要がある」と指摘した。

 調査結果の概要は2月下旬、全容は3月末に同学会ホームページで公開予定。問い合わせは日本福祉介護情報学会第24回研究学会事務局taikai2022@jissi.jpまで(状況により対応に時間を要する場合もある)。 

 【調査の概要】
 対象…社会福祉連携推進法人第1号「社会福祉法人グループ リガーレ」に加わる5法人で高齢者介護に従事する871人
 方法…無記名方式によるインターネット調査
 実施期間…2022年11月19日から12月7日
 有効回収数…619件(有効回収率71.1%)。 

 【有効回答619人について】
 男女比率…女性が74.2%、男性24.4%
 平均年齢(概算)…49.0歳。50~69歳が40.7%を占める
 勤務先…特養38.9%、小多機14.9%、地域密着型特養12.8%。施設(入所系)56.1%、施設(通所系)25.5%、訪問系2.9%(生田教授は、訪問系は非常勤スタッフが多いこともあり、回答を得ることが難しかったのではと分析)
 就業形態…常勤(無期雇用)55.1%、非常勤(嘱託・パート・アルバイト)42.6%
 職位…一般職・担当職73.2%(うち47.9%が常勤、50.1%が非常勤)、主任・ユニットリーダー・サブリーダーなど職場やチームのまとめ役13.6%、管理職6.3%

 

 

 

このカテゴリーの最新の記事

このカテゴリはメンバーだけが閲覧できます。このカテゴリを表示するには、年会費(年間購読料) もしくは 月会費(月間購読料)を購入してサインアップしてください。

制度見直しの議論続く 介護保険部会🆕

 第132回社会保障審議会介護保険部会が12月22日に開かれ、前回に続き「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」などが議論された。
 
 今回提示された案では、「一定以上所得の判断基準」について、これまで同様、年金収入+その他の合計所得を「年260万円~230万円の範囲」とした。まだ具体的な方向は見えない。委員の中には「2割負担の対象を拡大すべきでない」との意見も根強い。
 
 「拡大すべきでない」論者の意見は、
 
 ・医療ではOTC類似薬への新たな負担など、高齢者の負担増が確実。介護でも負担増は避けるべき
 
 ・負担増から利用控えが起こると、子世代にしわ寄せがくる。介護離職が増えるのでは
 
 ・現役世代の負担軽減は重要だが、サービスを使えなくなった親を子が援助すれば結局子の負担は増える
 
 などがある。持続可能性を高めるには被保険者の範囲や公費負担も見直すべき、との意見もあった。

2割負担、ケアマネジメントの在り方は 部会🆕

 第131回社会保障審議会介護保険部会が12月15日に開かれ、「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」などが議論された。
 
 「介護保険制度の見直しに関する意見」は2022年12月に“第1弾”が公表されている。このとき結論が出されなかった、〈「一定以上所得」「現役並み所得」の判断基準〉〈補足給付の在り方〉〈ケアマネジメントに関する給付の在り方〉〈軽度者への生活援助サービスに関する給付の在り方〉などについて、これまで部会で議論が続けられた。
 
 これらは「次期計画に向けて得ることが適当」「第10期計画の開始までに出すのが適当」「引き続き検討」とされた。次期計画とは現在の第9期(2024-26年度)、第10期は27-29年度である。
 
 「一定以上所得の判断基準」は「次期計画に向けて」だったが、まだ決着していない。2割負担の拡大、すなわち適用される所得の引き下げにつながることから、反対意見が根強かった。現行制度では、2割負担となる所得基準は年280万円以上だ。これをどこまで引き下げるか。年260万円~230万円の範囲が提案されている。
 
 引き下げ幅が大きいほど、2割負担となる人は増える。ただ引き下げと同時に「配慮措置」も提案されている。①新たに負担増となる場合、増加の上限を月額7000円とする、②預貯金等が一定額以下の人は申請により1割負担に戻す、の2つだ。

訪問介護の倒産止まらず 報酬引き下げなど響く

 東京商工リサーチの調査によると、訪問介護事業者の2025年の倒産(負債1000万円以上)が11月末までに85件に達し、これまで最多だった23年67件、24年81件をすでに超え、3年連続で最多を更新した。  人手不足や24年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が引き下げられたことに加え、人件費やガソリン代、運営コストの上昇が要因と見込まれる。  25年の訪問介護事業者の倒産は11月末までに85件(前年81件)で、3年連続で年間最多を更新した。...

2割負担対象も預貯金に応じ1割の案 部会

 第130回社会保障審議会介護保険部会が12月1日に開かれ、「持続可能性の確保」「論点ごとの議論の状況」などが議論された。
 
 今回、「持続可能性の確保」は
 
 ●「一定以上所得」「現役並み所得」の判断基準
 ●補足給付に関する給付の在り方
 ●ケアマネジメントに関する給付の在り方
 
 の3つの論点に絞って議論された。
 
 「一定以上所得」「現役並み所得」の「一定以上」とは、介護保険サービス利用時の自己負担を2割とする所得層で、「現役並み」とは自己負担3割の所得層だ。簡単にいえば所得の多い人は自己負担も多く、という応能負担の考え方に基づく施策である。現行の「一定以上所得」「現役並み所得」の基準は以下の通り。

賛否分かれる論点に進展なし 介護保険部会

 第129回社会保障審議会介護保険部会が11月20日に開かれ、「介護保険制度に関するその他の議題」「持続可能性の確保」などが議論された。
 
 「持続可能性の確保」の内容は
 
 ●1号保険料負担の在り方
 ●「一定以上所得」「現役並み所得」の判断基準
 ●ケアマネジメントに関する給付の在り方
 ●軽度者への生活援助サービスに関する給付の在り方
 ●被保険者範囲・受給者範囲
 ●金融所得・金融資産の反映の在り方
 
 など、注目度が高い項目が多く、これまでも議論が続いてきたが、今回は事務局から具体的にどうするか、施策の方向は示されていない。
 
 ケアマネジメントに関する給付の在り方については、他サービスと同様に幅広い利用者に負担を求めること(ケアマネジメント有料化)や、その判断にあたって利用者の所得状況を考慮することをどう考えるか、住宅型有料老人ホームの入居者に係るケアマネジメントについて利用者負担を求めるか、などの論点が示された。

1週間無料でお試し購読ができます  詳しくはここをクリック

新着記事は1カ月無料で公開

有料記事は990円(税込)で1カ月読み放題

*1年間は1万1000円(同)

〈新着情報〉〈政策・審議会・統計〉〈業界の動き〉は無料

【アーカイブ】テーマ特集/対談・インタビュー

コラム一覧

【アーカイブ】現場ルポ/医療介護ビジネス新時代

アクセスランキング(12月15-21日)

  • 1位
  • 2位
  • 3位 90% 90%
メディカ出版 医療と介護Next バックナンバーのご案内

公式SNS