第17回 自宅ではない居場所で看取る

2023年 11月 15日

 「だんだん会」として事業を開始して7年、7つの事業を立ち上げました。どの事業も目標の1つは、要介護でも重病でもご本人が望むような最期を迎えられるように支援することです。

 たくさんの方々に出会い、そして入居者・利用者のたくさんのお看取りの支援をさせていただきました。

グループホームでの看取り
 グループホームに入居している本人や家族は、延命などの治療は望まず自然にこの世を終われるようにという方がほとんど。

 たとえば90歳のAさんは、元大学教授。尊厳死協会に入会していて、自分の最期について書いたものを息子さんに託していました。

 他の病気があるわけでなく自然に衰弱が進み、いよいよ食事も水分も口にすることができなくなります。医師と家族と職員とで話し合った結果、点滴などの治療はせずに、口から飲めるだけ飲んで見守るということになりました。

 経口摂取がゼロに近い状態ながら、本人の意識は鮮明で静かに目を閉じていました。その状態が3週間ほど続いた後、血圧が低下し、死は目前です。そこで私は家族に「いよいよです。できれば泊まり込んで一緒にお看取りしましょう」と伝えました。

 その日は娘さんが泊まり、一晩中2人でお話ししていたそうです。かすれ声で昔の話やら…。

 翌日、息子さんが傍で見守っている中でAさんは息を引き取りました。「宮崎さんがいったように、呼吸の様子が変わってきて、大きな呼吸を2回したんです。ああこれが最後の呼吸に違いないと思ったんです」「父の耳元で『お父さん、大好きだよ!』と言ったら、父の目から涙がこぼれたんです。それで『お父さん、ありがとう』と言うと、もう一度大きな呼吸をして、それから呼吸をしなくなったんです」「父にとって最高の死に方です。本当にありがとうございます」。

 このように、多くの方をお看取りさせていただきましたが、どの方もドラマのような素晴らしい生き方の最期だったと思います。

わがままハウス山吹での最期
 わがままハウス山吹は、支援付き多機能型シェアハウス。11名の方が入居しています。認知症の方もいれば重度の内臓疾患の方、足腰ピンピンで認知症もない元気な90代の方など多様な方がいっしょに暮らします。

 Bさんは93歳で重度の認知症。普段は車いすです。穏やかでにこにこして他の入居者から慕われていました。Bさんの親族の願いは、何があっても入院しないで、このわがままハウスで静かに看取ってほしいということでした。

 少しずつ衰弱し車いすに座ることができなくなり、お部屋でベッドに横になったままうとうとしている時間が増えてきました。そうしたら、他の入居者が心配して「Bさん、最近リビングに顔を出さないね。具合が悪いのかな。みんなでお見舞いに行こう」と見舞ってくれました。

 「Bさん、リビングで隣の席を空けて待っているからね」「何か食べたいものない? 持ってくるよ」などと話しかけてくれました。目を閉じたままぼーっとしていることが多かったのに、この時はしっかりと目を開けて、笑顔でお話しされていました。

 それからまもなく、Bさんは静かに息を引き取られました。他の入居者の方々に「今朝、Bさんが静かにあの世に逝かれました」とお伝えすると、「ああそう。Bさんは幸せね。うらやましいわ。私の時にもこんなふうに死にたいわ、ね」と口々におっしゃいます。

 そして、玄関で、みんなでBさんをお見送り。「私ももうすぐ逝くからね、待っててね」と。

自宅・在宅とは違ったお看取り
 私は、もともと訪問看護師です。ご自宅での看取りを数多く支援してきました。ご本人らしい、ご本人が望むような最期の生活を送れるように、医師や他の職種、それに家族と一緒になって取り組み、素晴らしい最期の生き方を見せてもらいました。

 八ヶ岳に来てからも、ご自宅での最期の支援も多数実施していますが、グループホームやシェアハウスでの看取りを支援させてもらって、何とも言えない感動を覚えています。

 Bさんのように、家族ではない、いっしょに暮らし合う他の入居者が、ある意味でターミナルケアを行い、そして看取りの一員として役割を果たしているのです。

 高齢期に初めて出会い一緒に暮らした数年なのに、そういう人間関係を作ることができるものだなあ。そうできるようにすることが職員の役割なんだなあと。人間はたくましい!

宮崎和加子だんだん会理事長

宮崎和加子(みやざき・わかこ) だんだん会理事長

訪問看護のパイオニアで認知症ケアの先駆者としても知られる。東京都初の訪問看護ステーション所長や全国訪問看護事業協会事務局長などを歴任した。

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インタビュー 大都市以外は別の制度が必要――報酬改定に寄せて(上)🆕

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■報酬改定で定期巡回も引き下げ
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第16回 気がついたら8年目

 2016年、還暦でここ北杜市に移住して始めた「だんだん会」。事業を開始して早7年、あっという間です。潤沢な資金があるわけではなく、ほとんど無一文で立ち上げ、みなさんからの寄付や基金、もちろん金融機関から融資も受けて何とかつないでいるところです。
 
■無我夢中で取り組んで
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第15回 リハ特化型の半日デイサービス

 要介護者や人生終末期の方にとってリハビリテーションの存在は貴重です。絶対にないといけないという‟絶対条件“ではないような例もありますが、多くの方はリハビリ職が関わることで生活の質が変わっていくように思います。だからリハビリは‟必要条件”です。
 
 リハ職と呼ばれるのは、リハビリテーション専門職で、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の3職種です。リハビリ専門病院や大病院には多数のリハ職が配置されていますが、ここ八ヶ岳南麓では手薄です。

 
 特に、在宅で療養をする要介護者の自宅に赴いてリハビリを実施する訪問リハは不足気味でした。訪問リハを実施できるのは、医療機関もしくは訪問看護ステーションに所属するリハ職です。
 
■地域看護センターあんあんで開始
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第14回 制度の外の活動って、素敵です

 2017年の事業開始と同時に「オレンジサロン長坂・白州」を実施してきました。一般的にいわれている「認知症カフェ」です。
■認知症カフェとは
 認知症カフェは、認知症の当事者の方が集まるカフェです。当事者の方だけではなく、家族や地域の住民や医療の専門職など、誰でも立ち寄ることができ、交流を深める場となっています。
 日本では2015年、「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によって認知症カフェが始まりました。この新オレンジプランは、認知症の当事者の方が、住み慣れた住みやすい場所で引き続き生活できることをうたっています。
 認知症カフェが開かれて地域の人に認知症を理解してもらうことは、地域全体で住みよい街づくりができることにも繋がります。
■オレンジサロンをはじめよう
 「だんだん会」を一緒になって立ち上げ、パートナーとしてずっと事業展開してきた理事の中嶋登美子さんは、地元出身の保健師です。長く北杜市の保健行政に関わって仕事をしてこられました。中嶋さんと一緒にできたから、だんだん会の事業が順調に進んできたといえます。
 法人としてだんだん会を立ち上げて間もない2016年、その中嶋さんが「オレンジサロン(認知症カフェ)をやろう!」と言うのです。しかし、当時の法人はほぼ無一文で始まったばかりで収入もゼロ、職員もほぼゼロの時期でした。その上、オレンジサロンは収益事業ではないので、どのように開始し、そして続けていくか、課題だらけ。
■助成金にチャレンジ
 そんな時、「認知症カフェ」立ち上げの助成金があることを知りました。朝日新聞厚生事業団が1カ所に100万円(3年間分)の助成金を支給するというものです。
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第13回 次回の介護保険改定に異議あり!

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