インタビュー 大都市以外は別の制度が必要――報酬改定に寄せて(上)🆕

2024年 4月 24日

〈編集部より〉連載「八ヶ岳のふもとでケア・イン・プレイス」は、今回が最終回です。「だんだん会」の事業として8年間実践してきた介護サービスについて、2024年度介護報酬改定への評価やケアのあり方などを語ってもらいました。上下2回でお届けします。

報酬改定で定期巡回も引き下げ
 介護保険制度は、住み慣れた地域とか自宅で暮らすことを支援する、と謳っています。でもそう言っておきながら、どんな状態であっても――要介護5や重度の認知症であっても――、自宅で過ごし、自宅で一生を終えることをサポートする、という気構えがないように見えます。

 だから、訪問介護や定期巡回・随時対応型訪問介護看護(以下、定期巡回)の基礎報酬を一律下げるという安易なことができてしまうのでしょう。

 こうした基礎報酬引き下げの根拠は、事業所の収支差率が割と高かったことです。2023(令和5)年度介護事業経営実態調査によれば、定期巡回の収支差率はプラス11.0%とダントツだったわけです。訪問介護はプラス7.8%と、まあ良い数字でした(いずれも2022年度決算)。

宮崎さんインタビュー表

厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査結果の概要」より

 11.0%という数字はどこから出てくるのか。私に言わせれば、大都市の事業者がサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とか有料老人ホームとかに介護に行くのを、定期巡回と称しているだけなんですね。

 典型的なのはサ高住で、そこに住んでいる人にしかサービスを提供しない。その建物の中しか行かない「中だけサービス」です。だから移動時間は1分か2分、ものすごく短く、コストも少なくてすみます。

 それを在宅の地域密着サービスである定期巡回の仕組みで請求する。利用者の数さえ確保できれば、儲かるに決まってます。そういう儲かる仕組みを作って、厚労省はこれがビジネスモデル、どんどんやりなさいと言わんばかり。

 サ高住が大量に造られ、その一角にデイサービスを設けて、定期巡回や訪問介護も作って、二重三重に料金を取るようなところもある。いわゆる「囲い込み」ですが、それでいい、という扱いをしているわけです。

「中だけサービス」、あってもいいけど
 それも一つの方法と思うんです。「中だけサービス」があってもいい。施設に集めたり、集住してもらったりしてサービスを提供する手法は、確かに効率よく合理的でしょう。大都市でも人材確保は簡単じゃありませんから。職員の給料も上げられるかもしれません。

 でも一方で、愛着ある自宅で過ごしたい人もいます。そういう人を切り捨ててはいけない。地域のお住まい1軒1軒に伺うサービスも持続できる制度にしないと、住み慣れた家にいられなくなってしまいます。

 私は看護と介護がうまく合体したケアを提供したくて介護事業を始めたんですけど、あえて東京から離れ、山梨県北杜市で「だんだん会」を立ち上げました。

 東京は事業者も要介護者も多いからいいんです。地方がどうなっていくかがとても心配で、その真っ只中に身を置いてみたかった。地方で始めて、やっぱりすごく不利だと気付きました。

 私の事業所では、非常勤職員の移動時間にももちろん時給を支払っています。定期巡回の移動に30分かかって5分ケアして次の移動にまた30分。儲からないのは当たり前です。

 「中だけサービス」と、1軒1軒回る手間ひまのかかるサービスが一緒くたにされてることが、すごく腑に落ちないというか、問題点と思いますね。

 厚労省はそれなりに配慮して、同一建物減算を導入してはいます。両者の違いを視野に入れていると。ただ実際にやっていると全く不十分で、「中だけサービス」の報酬は施設基準に準ずるべきなのではないでしょうか。

 報酬改定の数字からは、思想が全く見えません。何を目指していくのかが、わからなくなりました。

大都市以外は別の制度が必要
 介護保険は全国一律の制度ですが、そのサービスを提供する事業者は、所在地によって2つの層に分かれると思います。大都市圏の事業者と、それ以外の事業者です。

 両者はもう人口が極端に違ってきていて、大都市以外は人口減少し消滅しそうな地域も珍しくない。全く違う国のような状況といってもいいでしょう。ですから、介護もそれぞれに応じて全く異なる政策、制度が必要と思います。

 現状は、大都市圏すなわち人口が多い地域で高齢期を過ごす人をサポートするための仕組みになっている気がします。それ以外の地域の人は、この仕組みに無理やり合わせなければなりません。

 大都市圏に必要なサービスと、地方に必要なサービスは、提供方法も規模も異なると思います。もう別々のサービスです。なのに、全国統一した基準の制度だから、無理が起きるわけです。

 大都市圏でなくても、県庁所在地の市部はまだいいと思います。人口の少ない県庁所在地でも20万人弱はいる。それ以外の、もっと少ない地域は、人がいないからお金が回りません。小規模事業所どうしの統合もままならない。ただ、統合は別の意味でも簡単ではありません。理念や法人形態が違うから。

 だったら行政が介護事業をやればいいんじゃないかといっても、なかなかそうはいかない。人の少ない自治体は財政赤字で予算がないから、介護事業なんてとてもできない。結局、民間に任せるしかない。全国的にそんな動きが見えます。

 そうすると残る道は、一生懸命やっている事業者を善意の市民が応援するような仕組みぐらい。そうでもしないと続けていけないと痛感しています。

国民年金の高齢者は介護を受けられなくなる?
 都市と地方の差に加え、もう1つ大きな差があります。それは所得の差です。高齢者の収入のほとんどは年金ですけど、国民年金とそれ以外の方たちでは、介護保険で受けられるサービスがものすごく違います。

 厚生年金の方は、給付される年金の範囲内でいろんなサービスを利用できます。例えばグループホームだったら、私のところは自己負担1割で月に13万程度なので、厚生年金であれば払えます。

 ところが国民年金の給付は5万~6万だから、グループホームには入れません。では自宅で、貯金で暮らしていけるかっていうと、それも無理な人が多い。農家や自営業で蓄えが十分でない方は珍しくありません。子どもが援助してくれるかもしれないけど、今、若者だって生きるのは大変です。

 それなら生活保護を受けられるかというと、家や土地があるから、受けられない。家といっても、築50年以上の老朽化した家だし、田舎だから土地の資産価値が高いわけじゃないのに…。

 自己負担が払えないから、定期巡回を使えない、認知症があってもグループホームに入れない、そういう人が大勢います。

 高齢者にも収入の格差がすごくあります。介護保険サービスが必要な人に十分行き渡っているかというと、決してそうは言えません。自費のサービスなんて、どこの世界の話? というふうに見えます。

 今回の介護報酬改定で定期巡回や訪問介護の事業所が淘汰されてしまうと、居住系施設に入るお金もない方はどうすればいいのか。

 収入に応じて減免のある特養ホームなどは、待機者が多くて簡単には入れない。家にいながらケアを受けられず放置されて、介護崩壊というか、生活崩壊の事態が起きかねないのでは。地方はそんな状態になりそうで、ハラハラしています。

職員確保も加算も困難
 介護報酬が低くて、介護保険の収入だけでは十分な給料が払えないのも悩みの種。今回の報酬改定でも、加算をとれば給料を上げられるといいます。

 でも、介護福祉士がいないととれない加算があって、北杜市のように人口の少ない地域はそもそも有資格者が少ないし、数少ない有資格者は給料のいい大手に行ってしまいます。初任者研修では加算をとれないから、結局、とれる加算は限られます。

 若い人がいないから、私のところでは、定年を過ぎた方にも働いてもらっています。無理がないよう、週に1日だけでも、短時間でもいい、という感じです。

 ICTを導入するととれる加算もありますが、定年を過ぎた方、70代の方を多く雇用していると、パソコンやタブレットを業務に取り入れるのは簡単ではありません。(「下」に続く)

宮崎和加子だんだん会理事長

宮崎和加子(みやざき・わかこ) だんだん会理事長

訪問看護のパイオニアで認知症ケアの先駆者としても知られる。東京都初の訪問看護ステーション所長や全国訪問看護事業協会事務局長などを歴任した。

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インタビュー 介護や介護保険制度を改めて語る――報酬改定に寄せて(下)🆕

■在宅介護サービスの独自性とは
 
 介護は、ただ事業所を立ち上げてサービスを提供すればいい、っていうものではありません。それはどんな業種もそうでしょうけど、とりわけ介護事業には、サービスの質が求められます。かといって質だけ追求してもだめで、量も必須です。量だけ追求すれば質は落ちます。両者のバランスが重要なんですね。
 
 私はとにかく質を保ちつつ、量もなんとか確保しようと丸8年やってきましたけど、本当に困難が多い道でした。やっと続けてこられました。
 
 在宅の介護サービスならではの重要なポイントは、医療系の在宅サービスとは全然違うところにあるんです。それが何か、わかりますか。たとえば訪問看護であれば、極端な表現ですが、必要な医療処置や身体ケアができるなら…

第17回 自宅ではない居場所で看取る

 「だんだん会」として事業を開始して7年、7つの事業を立ち上げました。どの事業も目標の1つは、要介護でも重病でもご本人が望むような最期を迎えられるように支援することです。
 
 たくさんの方々に出会っい、そして入居者・利用者のたくさんのお看取りの支援をさせていただきました。
 
■グループホームでの看取り
 グループホームに入居している本人や家族は、延命などの治療は望まず自然にこの世を終われるようにという方がほとんど。
 
 たとえば90歳のAさんは、元大学教授。尊厳死協会に入会していて、自分の最期について書いたものを息子さんに託していました。他の病気があるわけでなく自然に衰弱が進み…

第16回 気がついたら8年目

 2016年、還暦でここ北杜市に移住して始めた「だんだん会」。事業を開始して早7年、あっという間です。潤沢な資金があるわけではなく、ほとんど無一文で立ち上げ、みなさんからの寄付や基金、もちろん金融機関から融資も受けて何とかつないでいるところです。
 
■無我夢中で取り組んで
 私自身がやりたかったことを事業にしたのではなく、地域に必要だけど不足していて、かつ私にできる事業やサービスを創り上げていくことの連続でした。結果的には…

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第15回 リハ特化型の半日デイサービス

 要介護者や人生終末期の方にとってリハビリテーションの存在は貴重です。絶対にないといけないという‟絶対条件“ではないような例もありますが、多くの方はリハビリ職が関わることで生活の質が変わっていくように思います。だからリハビリは‟必要条件”です。
 
 リハ職と呼ばれるのは、リハビリテーション専門職で、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の3職種です。リハビリ専門病院や大病院には多数のリハ職が配置されていますが、ここ八ヶ岳南麓では手薄です。

 
 特に、在宅で療養をする要介護者の自宅に赴いてリハビリを実施する訪問リハは不足気味でした。訪問リハを実施できるのは、医療機関もしくは訪問看護ステーションに所属するリハ職です。
 
■地域看護センターあんあんで開始
 私たちだんだん会もリハ職に来てほしいのですが、こんな小さな法人・事業所にリハ職が就職してくれるのはかなり厳しいと思って、半ばあきらめていました。だんだん会には…

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第14回 制度の外の活動って、素敵です

 2017年の事業開始と同時に「オレンジサロン長坂・白州」を実施してきました。一般的にいわれている「認知症カフェ」です。
■認知症カフェとは
 認知症カフェは、認知症の当事者の方が集まるカフェです。当事者の方だけではなく、家族や地域の住民や医療の専門職など、誰でも立ち寄ることができ、交流を深める場となっています。
 日本では2015年、「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によって認知症カフェが始まりました。この新オレンジプランは、認知症の当事者の方が、住み慣れた住みやすい場所で引き続き生活できることをうたっています。
 認知症カフェが開かれて地域の人に認知症を理解してもらうことは、地域全体で住みよい街づくりができることにも繋がります。
■オレンジサロンをはじめよう
 「だんだん会」を一緒になって立ち上げ、パートナーとしてずっと事業展開してきた理事の中嶋登美子さんは、地元出身の保健師です。長く北杜市の保健行政に関わって仕事をしてこられました。中嶋さんと一緒にできたから、だんだん会の事業が順調に進んできたといえます。
 法人としてだんだん会を立ち上げて間もない2016年、その中嶋さんが「オレンジサロン(認知症カフェ)をやろう!」と言うのです。しかし、当時の法人はほぼ無一文で始まったばかりで収入もゼロ、職員もほぼゼロの時期でした。その上、オレンジサロンは収益事業ではないので、どのように開始し、そして続けていくか、課題だらけ。
■助成金にチャレンジ
 そんな時、「認知症カフェ」立ち上げの助成金があることを知りました。朝日新聞厚生事業団が1カ所に100万円(3年間分)の助成金を支給するというものです。
 そこで中嶋さんが中心となって企画計画書を作成し、応募しました。市民中心のオレンジサロンを同時に2カ所で実施するという内容です。審査の結果…

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