社会的処方の制度化は 医師のソーシャルワーク的活動を むしろ妨げる危険をはらむ(上)

2020年 12月 10日

インタビュー 中野智紀さん(東埼玉総合病院地域糖尿病センター長)
■医師が患者の生活問題に目を向けることは重要
――中野先生は埼玉・幸手市で2012年、福祉(生活モデル)を基盤とした全国でも珍しい地域包括ケアのモデル構築に着手し、その拠点となる「在宅医療連携拠点 菜のはな」室長を現在も務めておられます。これらは今では「幸手モデル」と呼ばれ、高く評価されています。内科医として糖尿病の治療に携わってきたご経験もあって、そういう場を整備されました。社会的処方の先駆者と言っても過言ではありませんね。
 ありがとうございます。しかし、少し複雑です。確かに私たちの地域では、生活モデル(福祉やソーシャルワークが用いる支援作法)を基盤にケアシステムの構築を進めています。医療専門職らによるソーシャルワークは別に目新しいものではなく……
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社会的処方の制度化は 医師のソーシャルワーク的活動を むしろ妨げる危険をはらむ(下)

インタビュー 中野智紀さん(東埼玉総合病院地域糖尿病センター長)
■伴走すること自体が支援に
――支援の方向性が健康を目的として縛られるとは、どういうことでしょう。
 社会的処方が制度化されると、社会保障制度というものが功利主義の立場をとっているため、健康を目的とせざるを得ません。しかし、健康は広い概念ですから、何らかの代理目標かパラメーターを放棄しなければなりません。これが支援の方向を限定してしまいます。
 生活問題、すなわち生きる苦しみには、健康だけでなく複雑な要素が複合的に関わります。ほつれた糸を解いたらまた別の所がほつれ、そこを解く…といった繊細な作業の繰り返しです。もし生活問題を解決したと思っているなら、それは……

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「社会的処方」にこれだけの問題点 むしろ多職種連携への認識を深めよう(下)

藤井博之(日本福祉大学教授)
4.「社会的処方」というとらえ方への懸念
●処方という用語でいいか
 第1に、医療における社会的要因への関わりを社会的処方という用語で表現することは、処方権を巡る職種間の利害対立を引き起こす可能性がある。実際には社会福祉職側の反発は政治力の違いで表に出ないかも知れないが、それ自体も問題である。
 第2に、社会的つながりははたして「処方」できるのか? という根本的疑問がある。医師や医療専門職が社会的要因と病気の関係を認識することは大事だが、社会とのつながりを……

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「社会的処方」にこれだけの問題点 むしろ多職種連携への認識を深めよう(上)

藤井博之(日本福祉大学教授)
■はじめに
「社会的処方Social Prescribing」をめぐる経過を紹介し、この用語と考え方の問題点を多職種連携の視点から指摘したい。
「社会的処方」は英国で行われている、健康や病気の社会的要因に取り組む治療・予防方法である。社会的要因はSocial Determinants of Health (SDH)と表現され、公衆衛生学と臨床医学に跨がり健康・疾病と社会環境の関連を捉える政策と個別臨床の重要な概念である。私自身は、医療社会化運動に源流をもつ戦前からの「社会医学」の実践を志向し、診療や病院管理、地域活動で社会的要因にどう取り組むか関心を払ってきた。
 一方で「社会的処方」という用語には違和感がある。ここでは、①英国での取り組みの経緯と……

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買い物が介護予防になるショッピングリハビリ(下)

光プロジェクト・ショッピングリハビリカンパニー「ひかりサロン」
■自治体の総合事業として
 ショッピングリハビリはこうして、介護予防が必要なのに閉じこもりがちで外に出たがらなかった層をつかんでいった。ひかりサロンはフランチャイズ方式で各地に出店し、2020年10月現在、発祥の雲南市に加え北海道恵庭市、埼玉県蓮田市、兵庫県宝塚市などに7店舗を展開する。11月には、8店舗目が長野県岡谷市にオープン予定だ。これらのなかには、全国の自治体に義務付けられている介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)として展開する事業もある。
 雲南市を含む雲南広域連合は2017年度から……

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買い物が介護予防になるショッピングリハビリ(上)

光プロジェクト・ショッピングリハビリカンパニー「ひかりサロン」
 ショッピングセンターの一角、「ひかりサロン」に高齢者が集まってくる。いすに腰かけ、セラピスト(OTまたはPT)の声に合わせて体操が始まる。腕を前に伸ばして両手を握ったり開いたり、ノルディックポールを両手に持って上体を動かしたり、軽く汗をかく。体操が終われば、いよいよこのプログラムの本番、買い物が始まる。買い物に欠かせないのは、独自に開発された「楽々カート」。参加者は楽々カートを押しながら食料品売り場を歩き、商品を品定めし、かごに入れていく。膝に痛みがあって長距離歩行が困難な女性が、買い物を楽しんでいる。
 これは、島根県雲南市に誕生した「ショッピングリハビリ」の一部始終だ。その名の通り、買い物しながらリハビリするサービスを提供する事業で……

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