第1回 社会保障ナンバーの必要性――映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」に思うもの (上)

2020年 7月 13日

 オンライン生活に入っていった3月から4月頃、家の中でついつい、「ダニエル状態」という言葉をつかってしまっていた――ケン・ローチ監督に申し訳なく思っている。
■セーフティネットから漏れ落ちるダニエル
 ダニエルとは、映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」のダニエルのことで、彼は59歳で心臓発作を起こし、医師から働くことを止められていた。イギリスでは、就労が可能なのかどうかを福祉事務所でチェックを受けることになっており、ダニエルは、政府の委託業者によるマニュアル通りの問診に嫌気がさした返事をしてしまい、就労可能の判定を出されてしまう。そうなると、彼は、ユニバーサル・クレジットという、日本でいう生活保護や失業給付などが統合された普遍的(ユニバーサル)な制度の対象とならざるを得なくなる。
 この制度は、就労を促進するための仕組みが組み込まれている代わりに……
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第10回 サービス生産性の議論の仕方

 これからの社会保障のあり方、そして必要となる改革について議論をしている全世代型社会保障構築会議の下に、公的価格検討委員会というものが置かれている。その会議の第3回、2022年3月15日に次のように話していたら、結構多くの人が議事録を読んでいるようで、医療・介護関係の人たちから何度か連絡がきた。
 
もう一つですけれども、この会議の2回目に生産性というものは物的生産性と付加価値生産性というのがありますということを話しました。そして、物的生産性というのはアダム・スミスがピンを作るのに1人の労働者だったらば何本、だけれども、分業と協業でやっていくと1人当たりで作る本数が何本まで増えるという形で物的生産性をはかることは可能なわけですが、今、我々が対象としているのは物的生産性をはかることができないサービス業なのですね。
財の生産の世界で物的生産性にイクイバレントなサービス生産性の分子というのは、質ですね。サービスの質、QOL、患者の満足度であるというようなもので、この質を分子に置いて、そして、経済学でいう等量曲線といいますが、労働力がこのくらい、資本がこのくらい、この組合せだったらばこれだけの量を生産することができますという等しい量になる組合せの図というのがあるわけですけれども、この等量曲線のような等質曲線を一定として我々はICTやロボットを活用して労働力を減らすことができるという議論をしているのだろうと思います。
ICTを活用した生産性の向上と言われると私は意味が分からなくなるのですけれども、恐らくそういう議論をしているのだと思うのですね。
 
 この話は、図にするとわかりやすいので、今回はそうした話をしておこうと思う。
 経済学では、投下される労働力と資本の組み合わせによって等しい量の財を生産できる線を「等量曲線」と読んでいる。そして私は、サービスの場合は、「等質曲線」と呼んだ方がいいと考えている。
 図1は、同じ水準の質のサービスを提供するための…

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第9回 社会的共通資本としての地域医療連携推進法人

■ほっこりする文章
 医療政策などを日頃考えている人が読めば、ほっこりする文章がある。とても長くなるが、その分幸せな気分になってもらいたいので長文を紹介させてもらおうと思う。
 (運営方針)
・ 参加法人間において地域に必要な診療機能、病床規模の適正化を図り、将来を見据えた医療需要に対応できるよう業務の連携を進め…

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第8回 勘違いされているフリーアクセスとかかりつけ医

 日本医療の特徴として、しばしば、自由開業医制、自由標榜制、そしてフリーアクセスが挙げられる。このうちフリーアクセスについて、もし、その意味を、保険証一枚で、「いつでも、好きなところで」と解釈するのであれば…

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第7回 政策、そして政策論とは…

■20年以上前からの問題意識
 次の文章を書いたことがある。「政策は、所詮、力が作るのであって、正しさが作るのではない。」この言葉は、いわば、この世ではじめて声を出した、私の…
【筆者紹介】権丈善一(けんじょう・よしかず) 慶應義塾大学商学部教授
専門は社会保障・経済政策とりわけ再分配政策の政治経済学。「社会保障制度改革国民会議報告書」(2013年8月)の「医療・介護分野の改革」パートを起草した。

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第6回 子育て支援と介護保険

■はじめに
 この文章のタイトルは、「子育て支援と介護保険」というように、子ども向けの政策と高齢者向けの政策の話が一つになっている――このふたつ、何の関係があるのか? っと思われるかもしれない。その気持ちは、とてもよく分かる。だが、政策を考える上では、かなり重要なつながりを持っていたりもするのである。
 そのあたり、この文章を最後まで眺めてもらえれば、ご理解頂けるかもしれない、いや、理解してもらいたいところである。しばらくは……

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