第13回 地域に「多様な支援・サービス」は本当にないのか?

2023年 2月 24日

 日常生活支援総合事業(以下、総合事業)では、「多様な主体によるサービス」の構築が重視され、従来の保険給付サービスだけでなく、ボランティアなど住民主体による支援体制が期待されてきました。
 
 ところが総合事業の実施状況をみると、介護保険事業所が担う「従前相当」が大半で、住民主体が中心となる「サービスB」は、伸び悩んでいると言われています。
 
 私も自治体職員から「有償ボランティアはやはり難しい」、「うちの地域にはそういう団体はない」という声もよく聞きます。今回は、「地域に多様な支援・サービスは本当にないのか?」という点を少し考えてみたいと思います。
 
■地域の宝物を見落としていないか?
 
 住民主体の活動や有償ボランティアは、住民の自発性や篤志で成り立っているという意味で貴重なものです。したがって自治体職員が「そうした資源の育成は時間がかかるし、難しい」というのは正しいと思います。
 
 しかし、一方で、自治体側がこうした貴重な資源を十分に把握できているのかという点では、まだまだ努力の余地があると感じています。最近、私自身、素晴らしい助け合い活動を展開する団体に相次いで出会いました。
 
 ところが、一つの団体は自治体から補助金が得られず苦しい財政状況の中で運営していることがわかりました。もう一つの団体は、活動領域を拡大したいけど、マッチングを担うコーディネーターの人件費が確保できないと苦心していました。
 
 自治体側でも有償ボランティア活動があることは知っていたけど、支援の対象になるのかよくわからないままだったという事例にも遭遇しています。いずれも総合事業を活用すればしっかり支援できるケースでした。
 
 問題なのは、活動に取り組む団体側も、総合事業の複雑怪奇な補助の仕組みを熟知しているわけではないため、受けられるはずの支援を十分に認識できていないこと、また行政側も団体運営の厳しさを十分に把握していない場合があるということです。
 
 総合事業が開始された2015年前後には、ほとんどの自治体が…
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第5回 コロナ時代に「人が集まる地域づくり戦略」でよいのか?

 前回は、通いの場を中心とした地域づくり戦略の抱えている課題、特に生活支援機能の見落としについて指摘しましたが、今回は、もう少し具体的な手法の面でのアプローチとしてICTやSNSの活用について可能性を考えていきたいと思います。
■先行き不透明な中での地域づくり戦略の再検討
 2020年4月の緊急事態宣言で、高齢者の「通いの場」の多くは休止に追い込まれました。宣言解除後には、住民主体だからと自発的に再開した場もあったものの……
【筆者紹介】岩名礼介(いわな・れいすけ) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社主席研究員、共生・社会政策部長
自治体支援を専門とし、在宅医療・介護連携推進事業や生活支援体制整備事業、介護保険事業計画などのコンサルティング・研修に携わる。

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第4回 転換する「地域づくり戦略」の行方

 今回は、介護保険事業計画の基本指針でも重点が置かれた「地域づくり戦略」について、特に住民主体の通いの場に焦点を当てて、これまでの取り組みの評価と今後の行方について考えてみたいと思います。
■通いの場の成功と抜け落ちた「生活支援」
 総合事業の成果の1つは、「通いの場」、とりわけ体操教室の全国的な広がりだと思います。高知市の「いきいき百歳体操」等に端を発した住民主体の通いの場は、着実に全国に広がり、全国で10万か所をこえています。取り組みを支援した各地域の生活支援コーディネーターの貢献も、特筆すべきものです。
 こうした成功の裏で、見落とされがちな点もあります。生活支援の視点です。誰もが……

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第3回 自治体間格差の中での介護保険事業計画

■地域資源をマネジメントするための計画へ
 行政の介護・高齢者部門では、現在、第8期介護保険事業計画(以下、事業計画)の策定がすすめられています。来春から3年間の介護保険給付及び地域支援事業の事業量を見定め、保険料を計算するための計画です。
 介護サービスの量的見込に偏りがちだった事業計画でしたが、第6期(2015~2017年度)からは、専門職資源の質的なつながりを目指す「在宅医療・介護連携推進事業」や、地域の多様な資源の発掘・開発といった「生活支援体制整備事業(地域づくり)」の戦略も盛り込まれるようになり、別名として「地域包括ケア計画」とも呼ばれています。
 介護保険が始まった20年前は、どの自治体も初めての計画策定に試行錯誤を繰り返したものですが、近年は、保険料推計の手法の確立などもあり……

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第2回 地域支援事業はコロナ禍の下で何ができるか

■予定通り動かない地域支援事業
 「このコロナの状況じゃ、地域包括ケアとか言っていられないですね」
 ここ数カ月、同じようなことを何度か質問されました。緊急事態宣言が出された4月から6月にかけて、ほとんどの地域で通いの場活動は休止したと思います。その後、徐々に再開されていますが、地域の空気が変わってしまったと感じている方も多いと思います。
 地域支援事業の停滞感は、通いの場などの住民主体の活動だけではなく、在宅医療・介護連携推進事業についても、同様です。昨年度中に計画していた研修会やセミナーの類の多くが延期やキャンセルされていることでしょう。地域の緊迫した状況の中で、地域ケア会議の開催にも慎重になっています(私自身、いただいていた講演のほとんどが中止、または延期になりました)。そうした流れの中で、冒頭のように「地域包括ケアどころじゃない」という言葉が出てくるのは、自然なことかもしれません。
■通いの場が封じられたなら別の手段を
 通いの場の展開が難しくなったこの状況下で……

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第1回 データ分析しても地域課題が見えないのはなぜ?(下)

■時系列分析で地域の「変調」を知る
 では、データ分析と、地域課題の解決をうまく連動させるには、どういうことに気を付けたらいいのでしょうか。
 まず、健診データともいうべき基本データ、特に高齢化率や認定率、保険料、保険給付のデータなどは、時系列でのモニタリングがポイントです。他の市町村との比較も意味はありますが、介護保険も20年を超えており、高齢化や地域資源の状況には、簡単に解消しない格差があります。差があることを問題にしてもあまり意味がないのです。むしろ、同一地域における時系列の変化を見ることで地域に何が起こっているのかを知ることが大切です。これは、健康診断でもまったく同じではないでしょうか。
 そして健診段階では地域課題が見えるわけではない、ということも……

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