暮らしの場だからこそ、力を発揮できる。1990年代、在宅ケアの経験の中で、私にそのことを教えてくれたのは、はなさん(仮名、80歳代女性)だった。介護保険制度が導入される前は、通所介護の相談員がケースマネジメントをしていた。つながりのあった通所介護(特養併設)の相談員から、「便が出なくて、イレウスの心配があるため病院へ連れて行っている方がいる。飲み込みの問題も出てきた。長く家にいられるように訪問看護で支えてほしい」と相談され、はなさんの家を訪問した。
はなさんは重度のアルツハイマー型認知症だった。「はなさ~ん、宇都宮です。おはよう!」と挨拶すると、はなさんはクシャクシャな笑顔になって、そこから訪問看護の時間が始まった。はなさんはパンツ式おむつを着けていたけれども、いつもオシャレな服で過ごしていた。訪問看護では健康チェックをし、1週間の様子をうかがいながら、娘さんからの療養相談にのって、そのあと一緒に散歩をした。近所の子どもたちが「はなばあちゃ~ん」と集まってくる。老いて、少し物忘れが出てきても、子どもたちにとってはなさんは、これまでと変わらない存在なんだなと感じた。
ある日、娘さんから少し泣きそうな声で携帯に電話が入った。はなさんが自宅で尻もちをついて整形外科を受診したところ……