第98回介護保険部会を傍聴して、介護保険の給付と負担を考えた

2022年 9月 30日

 社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会は9月26日、「給付と負担」「その他の課題」について議論した。

かかる費用と負担する額
 介護保険の給付と負担は、介護保険制度の根幹に関わる問題である。折しも21日、2021年度の介護費用額*1が11兆291億3100万円と発表されたところだ。

 これはつまり、全国の介護保険サービス利用の1年間の総額である。毎年増え続け、初めて11兆円を超えた。*2

 このお金は介護保険料と公費(税金)で賄われる。下の表は、2020年度の介護保険特別会計(保険事業)である。

 歳入は11兆5584億円、歳出は11兆2329億円、差引残額3255億円であった(同年度の介護費用額は10兆7783億3400万円*2であり、歳出イコール介護費用ではない)。*3

介護保険2

 歳入のうち、保険料は2兆3567億円。これは第1号被保険者(65歳以上)から徴収した保険料のみで、第2号被保険者(現役世代)から徴収した保険料は含まない。現役世代から徴収した保険料は、支払基金交付金として計上されている2兆8728億円である。

 ざっくり表現すれば、20年度の介護サービスにかかった10兆7783億円の半額のおよそ5兆円を第1号・第2号被保険者が分け合って賄い、残りを税金が負担していることになる。

国民の理解を求めるための議論を
 高齢者の数が多いから、介護保険サービスにはべらぼうなお金がかかる。20年度の防衛関係費は5兆3133億円(財務省資料、予算ベース*4)だから、介護の半分程度である。

 サービスを受ける高齢者は質の高いサービスをなるべく多く、本人負担はなるべく少なく受けたい。負担する現役世代は、なるべく負担を減らしたい。どちらも、当事者としてそう思うのは当然のことだ。

 26日の介護保険部会では、委員の立場によって「給付を減らすな」「負担を増やすな」と、意見が明快に分かれた。どちらの意見も正しいし、理解できる。でも、上記のような現実を前に、いつまでその次元にとどまっているのか。

 そろそろ不毛な対立を乗り越えて、給付減と負担増を具体的にどうするか、それらをどうやって国民に理解してもらうかを議論してほしい。

 「給付を減らすな」「負担を増やすな」だけでなく、「抜本的な検討が必要」との意見も多かった。それも正しい意見だが、では具体的にどうするのかを示してほしい。

 サービスの受け手が増えて支え手は減っている。そして、これからもっと増えてもっと減っていくことがわかっている。

 結局のところ、どう考えても支出を減らして収入を増やす手段を検討するしかない。どう抜本的に検討しても、「給付減」「負担増」のたぐいにならざるをえないのではないだろうか――介護保険制度を継続するのであれば(継続しない選択肢など、ありえないでしょう?)。

 支出を減らす手段の1つが「介護保険を適用するサービスの縮小」であり、その代表が「要介護1・2向けサービスの総合事業への移行」である。これも委員の間で賛否が分かれた。

 収入を増やす手段は、保険料を上げる(これは毎期、多くの保険者が実施している)、介護保険料の徴収対象者を拡大する(介護保険の加入年齢を引き下げるなど)、ケアプランを有料化する、などが考えられる。これらについては、部会では触れられなかったものもあるが、やはり賛否は分かれるだろう。

 賛否が分かれたままでは、何も進まないし、世代間の対立を無意味に煽りかねない。何をどこまで受け入れるか、歩み寄るか、といった議論の時期だ。

 介護費用がこのまま膨れ上がれば、保険料と公費もどんどん増やさなければならなくなる。日本の低賃金が指摘される昨今、現役世代にはもちろん、高齢者自身にとっても大変な重荷となっていく。

 ある委員は「消費税の逆進性ばかりが言われるが、低所得者にとっては、実は社会保険料のほうが負担となっている」「住民税非課税世帯の7割以上が高齢者世帯」と指摘した。

 介護だけでなく、医療も年金も、社会保障にはべらぼうなお金がかかる。これからの日本を、ある委員は「2040年から50年ごろにかけては、想像を絶する厳しい社会になる」と強調する。その通りだ。それが確実な未来で、そのために備えておかなければ。

 べらぼうなお金といえば、2021年度の企業(金融・保険を除く全業種)の内部留保(利益剰余金)は516兆4750億円だそうだ*5。このお金を働く人の賃金に回せば、保険料や税の重荷を軽くすることができるのではないか。

 

*1 介護費用額とは、保険給付額・公費負担額・利用者負担額(公費の本人負担額を含む)の合計。市区町村が直接支払う費用(償還払い)は含まない。
*2 介護給付費等実態統計より
3 令和2年度 介護保険事業状況報告(年報)概要より一部改変https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/20/dl/r02_gaiyou.pdf
*4 https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20211115/01.pdf
*5 https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/r3.pdf

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