ダイヤ工業(岡山市)はインナータイプのアシストスーツ「DARWING UT-Rise(ダーウィン ユーティーライズ)」を発売した。現在、アシストスーツは服の上から装着するアウタータイプが主流だが、装着性の良いインナータイプを普及させることで、さまざまな現場で働く人にとって、アシストスーツがより身近なものになることを目指す。
筋肉スーツからアシストスーツへ
ダイヤ工業は1963年の創業で、主に接骨院・鍼灸院・クリニックなどに向けて、日常用・スポーツ用サポーター・コルセットの開発・製造・販売を行っている。
同社がアシストスーツを手掛けるようになったのは、筋肉スーツを製品化したことがきっかけ。「首から指先までほぼすべての部位のサポーターを作っており、サポーターの集合体のようなものを作りたいと考え、全身筋肉スーツを開発することにした」と広報の藤原舞利子氏は説明する。
特徴は「二層構造で膝を持ち上げるパーツがあるので歩くのを補助したり、腰のサポートパーツが腰を支える機能を設けたこと」(藤原氏)。
藤原舞利子氏
高齢者がいつまでも元気に活躍するサポートがしたいと考え開発したものの、スポーツから作業現場での労働支援など、特にジャンルは特定しなかったが、同製品を見た竹中工務店から建設作業に特化したインナーの依頼があり、建設作業における動作をサポートするインナーを開発した。
これを機に「労働軽減」に焦点を当てた製品の開発に取り組むことになり、2017年に最初のアシストスーツ「DARWING SATT(ダーウィン サット)」を発売した。
サポーターのように手軽に装着
DARWING SATTは中腰姿勢の負担を軽減する製品で、骨盤サポーター・背中アシスト・臀部アシストの3つの機能により、背中から臀部までしっかりサポートするとともに、背部の伸縮ゴムが脊柱起立筋を、臀部の伸縮ゴムが臀部をサポートすることで、起き上がりと立ち上がりの負荷を軽減するものだ。
DARWING SATT
同製品はアウタータイプだが、担当者の1人である営業部アシスタントマネージャーの白神久嗣氏によると「アシストスーツと聞くと、メカニックなものをイメージする人が結構いるが、これはサポーターから派生しているので、『サポーターの高級版』と言われることが多い」という。
「装着が簡単で、着心地が良く、軽いという3点は、長年にわたり医療用のサポーターを開発・製造してきた自社の強みだと思っている」と白神氏は強調する。
DARWING SATTは物流や農業、建設、介護など職種を選ばずに使える、いわば汎用タイプとして開発された。その後、企業や施設などからさまざまな相談を寄せられたのを受け、作業内容に特化した製品を共同開発していった。
例えば、ぶどうの摘粒作業などで腕を上げっぱなしにする負担を軽減するため、JA岡山と「bonbone MOTT」=現在はリニューアル品「DARWING Agerelude(ダーウィン アゲレルデ)」=を、建設現場ではまだ人の手で穴を掘らなければならないことがあるので、掘削作業を楽にするため、清水建設と「DARWING ワーキングアシストAS」を、それぞれ共同で開発し製品化している。
DARWING Agerelude
こうしたダイヤ工業の動きと並行して、他社は外骨格型のアウタータイプを次々に製品化したが、使ってみると「重いし動きにくい上に値段が高い」という声が利用者から寄せられるようになり、各社はソフトなタイプのアシストスーツを製品化するようになった。
インナータイプのDARWING UT-Rise
そうした流れの中で、同社では顧客の声をヒアリングした結果、過去に筋肉スーツを作った経験から「インナータイプのアシストスーツを作れば、より多くの人たちに使ってもらえるのではないか」(白神氏)と考え、DARWING UT-Riseを開発することになった。
アウタータイプの場合、固い樹脂パーツがある事で例えば介護現場では利用者に樹脂パーツが接触する事が考えられ、自動車製造では自動車を傷つけてしまうことが懸念されるため、導入のハードルになっている。
また、着用したことのないアシストスーツを着ることに対する心理的な抵抗や着用による動きにくさ、装着の手間などから、導入が進まないということも、DARWING UT-Rise開発の背景にあった。
DARWING UT-Rise
製品化にあたっては①暑さ対策②装着性③サイズ設定の3点が大きな課題となった。暑さ対策では、密着感をなくし、ゆったりとさせることで熱がこもらないようにして、素材を全面メッシュとしたが、試用の結果、ずれやすいことが分かった。そこで、すべてをゆったりさせるのではなく、ずれとのバランスを取りながら、部分的に密着させることにした。
装着性については、スーツ全体を限りなく衣服の感覚に近づけることで解決。サイズに関しては、男女の体格差や細い・太いなど体形の差を加味し、LとMの2種類とした。
ちなみにUT-RiseのUTは「Ultra Thin(極薄)」を、Riseは「起き上がる、体を起こす、上昇する、向上する」を意味している。
製品はトップスとボトムスに分かれていて、衣服のように着用できる。トップスとボトムスの背中部分にそれぞれアタッチメントが付いていて、樹脂バックルで連結する。ボトムスにはアシスト力の強さを調整する「調整ベルト」が付いている。
アシスト力が必要になったら、調整ベルトを引っ張ってオンにする。アシスト力が必要なければ調整ベルトを緩めるか、アタッチメントの連結を外すことでオフになる。
トップスとボトムスはアタッチメントで連結(左)。強さは調整ベルトで調整するか(右)、アタッチメントを外すことでオフにする
なお、夏場の暑さ対策として、保冷剤ポケット付きベストを着用したり、空調付き作業服を着たりすることで、さらに快適に作業することができる。
DARWING UT-Riseの今後については、汎用的な現状の製品を基に、業種によって専用品化したものを開発していくことが計画されている。また、これまでも企業とタイアップして製品づくりを行ってきたが、オーダーメードによる専用品化も念頭に置いている。
日常に溶け込むものに
現在は全身タイプのアシストスーツが主流だが、「上半身のみ」「下半身のみ」など、独立した部分で完結できるようなタイプも考えている。また、「特に腕のアシストに関するニーズは十分ある」(白神氏)、そうした製品を開発していくこともテーマの1つとなっている。
さらに、DARWING UT-Riseはインナータイプであることから、個人支給になる部分は企業導入のハードルになるケースもある。アウタータイプであれば、現場のハンガーにかけておき、必要な人が必要な時に共有して使う形になるが、インナータイプだと服の下に着るので、そうはいかない。
この点に関しては「アシストスーツがもっと普及し、安全対策の為に着用義務までにならないとしても、ほとんどの企業が使うようになり、どれを選ぶかというような時代になれば、インナータイプが支給されていくのではないか」と白神氏は話す。
DARWING UT-Riseを手に取る白神久嗣氏
現状でもヘルメットや安全靴などは着用が義務付けられているし、炎天下に屋外で作業する多くの人が空調付き作業服を着るようになっていることを考えれば、アシストスーツがそうした製品と同様の扱いになっても不思議はない。
白神氏はアシストスーツについて「特別なものというよりは、着る事があたり前のもの、あるいは着ていても自然に溶け込むものに進化すること」を期待している。