ドイツの哲学者、カール・ヤスパースはBC5世紀前後を「枢軸の時代」と呼んでいた。この時代に、仏教、ジャイナ教、儒教を始めとした諸子百家、パレスティナの預言者、ギリシャ哲学など、今にいたる人間の思想の源ができあがっている。この背景には、鉄器が普及し、そこに地球温暖化が起こって、農業生産力が飛躍的に高まったことがあった。いわゆる農業生産性の増強の中、生産活動に就く必要のない有閑階級の誕生を社会が許したのである。
■話題其の弐
経済学の世界では、18世紀半ばの重農主義で知られるフランソワ・ケネーは、農業のみが生産的活動であり、他は農業での生産物を消費するだけの非生産的活動とみなしていた。ケネーの『経済表』よりも18年遅く『国富論』を出したアダム・スミスは、ケネーに敬意を払いながらもケネーの論を発展させて、生産活動に工業生産品などの財の生産も加えた。
しかしスミスが視野に入れた生産活動はそこまでであり、農産物や財を生産する人たちまでは生産的労働とみなす一方、それを消費するだけの人たちを……