インタビュー 介護や介護保険制度を改めて語る――報酬改定に寄せて(下)🆕

2024年 5月 1日

在宅介護サービスの独自性とは
 介護は、ただ事業所を立ち上げてサービスを提供すればいい、っていうものではありません。それはどんな業種もそうでしょうけど、とりわけ介護事業には、サービスの質が求められます。かといって質だけ追求してもだめで、量も必須です。量だけ追求すれば質は落ちます。両者のバランスが重要なんですね。

 私はとにかく質を保ちつつ、量もなんとか確保しようと丸8年やってきましたけど、本当に困難が多い道でした。やっと続けてこられました。

 在宅の介護サービスならではの重要なポイントは、医療系の在宅サービスとは全然違うところにあるんです。それが何か、わかりますか。たとえば訪問看護であれば、極端な表現ですが、必要な医療処置や身体ケアができるならどの時間帯に訪問してもOKです。10時に行こうが11時に行こうが問題ない。

 一方、在宅介護、訪問介護や定期巡回は、支援が必要な方たちの日常生活をサポートするものです。たとえばモーニングケアなら起床を介助して、洗面して髪をとかす…整容ですね。それから着替えを介助して、朝食の介助をします。

 どれも欠かせない支援ですし、どの人もだいたい同じ時間帯に必要で、ずらしにくい。夕方も同じで、夕食や寝る時間に合わせて訪問しなければなりません。つまり、特定の時間に職員の頭数が必要になるんです。それ以外の時間帯には、手が空いてしまう。この点が、経営の面でも運営の面でもすごく難しいのです。

 訪問看護なら、大雪だから今日は訪問しないで明日行こう、ということができる部分はあります。デイサービスも、事業所が明日は休業、とすることは不可能ではありません(現実にはほとんどないでしょうけど)。だけど訪問介護や定期巡回っていうのは、そうはいきません。こちらが行かなきゃ利用者さんはご飯も食べられない、おむつも替えられないんですから。

 そういう、生活に欠かせないルーチンの大切さを、もっとちゃんと踏まえて制度設計すべきです。移動時間の少ない大都市は、それなりにできるでしょう。雪も降りにくいし。ここ北杜市のような地方都市は、中山間地域の加算もとれません。豪雪地帯などかなり大変な地域しか、中山間地域の加算はとれませんから。大都市でもなく中山間地域加算もとれない“普通の田舎”は本当に厳しいです。

 そういう状況にあって今できることは、目の前にいる、介護が必要で介護を求めている方たちに対して精一杯ケアを提供することしかない。そう思って仕事をしています。

介護に専門職が必要な理由
 生活支援とは、日常生活をきちんと送ることへの支援です。健康な人も年取った人も、身体機能が低下している人も、日常生活を送るのはみんな同じ。日常生活って食べること、排泄すること、身体や居室を清潔にすること、移動することなど、具体的な中身は多岐にわたります。

 そのなかには、ボランティアとかご近所とか、いわゆる「互助」として誰にでもできる部分も、もちろんあります。でもボランティアも親しい人も近くにいなかったり、コロナで人間関係が壊されたりして、おいそれとインフォーマルには頼れません。

 自分の力だけで日常生活が送れない方を誰が手助けするのか。身内やご近所が担ってもいいですが、身内やご近所にできるのはプラスアルファの部分じゃないでしょうか。たまにお寿司やケーキを一緒に食べようとか。そうじゃない基本的な毎日の行動、毎日食べて出して清潔に暮らす、といった部分は、ちゃんと社会的に保障すべきです。

 それは誰が提供するのか。一般市民でもいい、という考えも間違いではないでしょう。だけど、やっぱりその人をその人らしく尊重して、人権を守り、生活を支える、その人の自己実現を達成できるように支援する、そういう領域は専門職の仕事というか、一定の教育を受けて誇りをもって行う仕事です。ここを近所の知り合いがやると、却って逆効果になりかねません。

自分らしく生きられる支援をしたい
 今のところ要介護1・2の生活援助は総合事業に移行しておらず、介護保険サービスで保障されています。でも、介護保険サービスはそれ以上のことはカバーしません。

 私は、その人が自分らしく生きることを支援したい。十分に食べられないことはあるかもしれないけど、心は豊かに生きていこう。心はね。食べることだけが幸せではないかもしれないから。自分が生きようと思った通りに生きて死んでくっていう、満足だったと思える生き方を支援したい。

 それには、介護保険とは異なる次元のサービスが必要です。介護の中の、食べたり出したりお風呂に入れたりするケアも大事だけども、そうじゃないところのケア。生きたいように生きて、それを全うするっていうところに重きを置いた支援をしたい。

 決まった時間にご飯食べて、お風呂に入れてもらって、ありがとうございますとスタッフに感謝して、それで1日が終わっていく。そんな暮らしは嫌だという人が、思いのままに生きられるよう支えたい。

 「介護施設には絶対入りたくない、介護してくれなくていいし野垂れ死んでもいいから、このまま家にいたい」とおっしゃる方がいます。いろんな望みがあります。私たちはそれに沿っていく。それが一番いいと思ってます。

 人間は案外たくましいから、何とか生きていくんです。低所得でも介護を受けられるようにみんなで知恵を絞ったり、見守ったりしていきながら、できるだけのことをやりながら。

25年目の介護保険は制度疲労してるけど
 介護保険ができて25年目。サービスの種類は多様化し、新しい類型ができて、そういう意味では充実してきたと思います。小規模多機能や看護小規模多機能のように、足りない部分を補う、利用しやすいサービスを実現させてきました。定期巡回もそうでしょう。

 介護保険ができる前の措置の時代から、自由にサービスを使える時代になって、介護保険を作ったことは正解だったと、心から思います。そのおかげで介護が身近になって、介護サービスを受ける権利も定着しました。介護の質に対しても住民が関心をもち、口出しや手出しするようになってきました。

 危機感危機感って言ってる割には、そんなふうに、まあまあ回ってると思える部分もなくはない。介護が受けられず餓死したり凍死したりするようなケースも聞きません。認知症の人が行方不明になって亡くなることはありますが、介護が足りず、あっちもこっちも悲惨という状態には、なっていないように映ります。

 私は介護の必要な方ばかり見ていますが、健康維持に努めて元気な高齢者も多いです。平日の昼間のジムは高齢者ばかり、というでしょう。「わがままハウス」の入居者もみんな90代で、認知症の方もいますが、それほど大きな病気はありません。なんとか、お互いに助け合い笑いながら過ごしています。介護保険の制度疲労を実感しつつ、問題点に声を上げながらも、私はさっき話したような支援を続けていきます。

宮崎和加子だんだん会理事長

宮崎和加子(みやざき・わかこ) だんだん会理事長

訪問看護のパイオニアで認知症ケアの先駆者としても知られる。東京都初の訪問看護ステーション所長や全国訪問看護事業協会事務局長などを歴任した。

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インタビュー 大都市以外は別の制度が必要――報酬改定に寄せて(上)🆕

〈編集部より〉連載「八ヶ岳のふもとでケア・イン・プレイス」は、今回が最終回です。「だんだん会」の事業として8年間実践してきた介護サービスについて、2024年度介護報酬改定への評価やケアのあり方などを語ってもらいました。上下2回でお届けします。
 
■報酬改定で定期巡回も引き下げ
 介護保険制度は、住み慣れた地域とか自宅で暮らすことを支援する、と謳っています。でもそう言っておきながら、どんな状態であっても――要介護5や重度の認知症であっても――、自宅で過ごし、自宅で一生を終えることをサポートする、という気構えがないように見えます。
 
 だから、訪問介護や定期巡回・随時対応型訪問介護看護(以下、定期巡回)の基礎報酬を一律下げるという安易なことができてしまうのでしょう。
 
 こうした基礎報酬引き下げの根拠は、事業所の収支差率が割と高かったことです。2023(令和5)年度介護事業経営実態調査によれば、定期巡回の収支差率は…

第17回 自宅ではない居場所で看取る

 「だんだん会」として事業を開始して7年、7つの事業を立ち上げました。どの事業も目標の1つは、要介護でも重病でもご本人が望むような最期を迎えられるように支援することです。
 
 たくさんの方々に出会っい、そして入居者・利用者のたくさんのお看取りの支援をさせていただきました。
 
■グループホームでの看取り
 グループホームに入居している本人や家族は、延命などの治療は望まず自然にこの世を終われるようにという方がほとんど。
 
 たとえば90歳のAさんは、元大学教授。尊厳死協会に入会していて、自分の最期について書いたものを息子さんに託していました。他の病気があるわけでなく自然に衰弱が進み…

第16回 気がついたら8年目

 2016年、還暦でここ北杜市に移住して始めた「だんだん会」。事業を開始して早7年、あっという間です。潤沢な資金があるわけではなく、ほとんど無一文で立ち上げ、みなさんからの寄付や基金、もちろん金融機関から融資も受けて何とかつないでいるところです。
 
■無我夢中で取り組んで
 私自身がやりたかったことを事業にしたのではなく、地域に必要だけど不足していて、かつ私にできる事業やサービスを創り上げていくことの連続でした。結果的には…

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第15回 リハ特化型の半日デイサービス

 要介護者や人生終末期の方にとってリハビリテーションの存在は貴重です。絶対にないといけないという‟絶対条件“ではないような例もありますが、多くの方はリハビリ職が関わることで生活の質が変わっていくように思います。だからリハビリは‟必要条件”です。
 
 リハ職と呼ばれるのは、リハビリテーション専門職で、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の3職種です。リハビリ専門病院や大病院には多数のリハ職が配置されていますが、ここ八ヶ岳南麓では手薄です。

 
 特に、在宅で療養をする要介護者の自宅に赴いてリハビリを実施する訪問リハは不足気味でした。訪問リハを実施できるのは、医療機関もしくは訪問看護ステーションに所属するリハ職です。
 
■地域看護センターあんあんで開始
 私たちだんだん会もリハ職に来てほしいのですが、こんな小さな法人・事業所にリハ職が就職してくれるのはかなり厳しいと思って、半ばあきらめていました。だんだん会には…

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第14回 制度の外の活動って、素敵です

 2017年の事業開始と同時に「オレンジサロン長坂・白州」を実施してきました。一般的にいわれている「認知症カフェ」です。
■認知症カフェとは
 認知症カフェは、認知症の当事者の方が集まるカフェです。当事者の方だけではなく、家族や地域の住民や医療の専門職など、誰でも立ち寄ることができ、交流を深める場となっています。
 日本では2015年、「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によって認知症カフェが始まりました。この新オレンジプランは、認知症の当事者の方が、住み慣れた住みやすい場所で引き続き生活できることをうたっています。
 認知症カフェが開かれて地域の人に認知症を理解してもらうことは、地域全体で住みよい街づくりができることにも繋がります。
■オレンジサロンをはじめよう
 「だんだん会」を一緒になって立ち上げ、パートナーとしてずっと事業展開してきた理事の中嶋登美子さんは、地元出身の保健師です。長く北杜市の保健行政に関わって仕事をしてこられました。中嶋さんと一緒にできたから、だんだん会の事業が順調に進んできたといえます。
 法人としてだんだん会を立ち上げて間もない2016年、その中嶋さんが「オレンジサロン(認知症カフェ)をやろう!」と言うのです。しかし、当時の法人はほぼ無一文で始まったばかりで収入もゼロ、職員もほぼゼロの時期でした。その上、オレンジサロンは収益事業ではないので、どのように開始し、そして続けていくか、課題だらけ。
■助成金にチャレンジ
 そんな時、「認知症カフェ」立ち上げの助成金があることを知りました。朝日新聞厚生事業団が1カ所に100万円(3年間分)の助成金を支給するというものです。
 そこで中嶋さんが中心となって企画計画書を作成し、応募しました。市民中心のオレンジサロンを同時に2カ所で実施するという内容です。審査の結果…

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