ヘルシーネットワークつながる
認定栄養ケア・ステーションのヘルシーネットワークつながる(東京都日野市)は、全国を対象とする電話栄養相談と、同市を中心とした地域密着栄養サポートを行っている。今年度、市から母子栄養事業を受託したこともあり、高齢者や療養者だけでなく「全世代に栄養サポートのアプローチができること」(ヘルシーネットワークの蒲祥子・管理栄養士)を目標としている。
電話相談窓口が出発点
認定栄養ケア・ステーションは、地域住民に栄養ケアの支援・指導を行う拠点であり、管理栄養士・栄養士が身近にいることを知ってもらうことも目的としている。病院や診療所、薬局、民間企業などが設置して、日本栄養士会が認定する。各都道府県に1つずつある、栄養士会の栄養ケア・ステーションのネットワークの1つという位置付けになっている。
ヘルシーネットワークつながるは、介護食品・栄養調整食品の製造・販売を行っているヘルシーフードのグループ会社で、これらの製品の通信販売を行うヘルシーネットワークの相談窓口が出発点となっている。この相談窓口は商品を購入した人からのさまざまな問い合わせに電話で対応するため、2018年4月に管理栄養士2人を配置して開設した。

昨年2月に行われた日野市主催の市民向けイベントで栄養相談を行った
相談窓口では電話で相談を受ける一方、在宅での栄養管理の実情を知るため、日野市の専門職の人たちと交流を始めた。そこで「栄養に関して幅広く相談に乗ってほしい」との声が多数寄せられたことから、その方策を検討していたところ、昨年9月から認定栄養ケア・ステーションの制度が始まることになり、すぐに申請を行って、改めてヘルシーネットワークつながるとして地域住民の栄養サポートを行うようになった。
医療機関に設置している認定栄養ケア・ステーションは、医療保険・介護保険を利用したサービスを提供できるが、ヘルシーネットワークつながるのような企業型は、これらの保険を利用したサービスの提供は難しい。逆に言えば、企業型は医療保険・介護保険にしばられないサービスを提供できる。そこで、地域住民がどういうものを求めているのかを調べた上で、試行錯誤を重ねサービス内容を決めた。ちなみに、医療保険・介護保険を利用したサービスを希望する相談が寄せられた場合は、それが可能な市内の医療機関や栄養士会栄養ケア・ステーションなどを紹介している。
厚労省のガイドラインに沿って配食
ヘルシーネットワークつながるの事業は大きく2つに分けられる。1つは電話栄養相談、もう1つが日野市を中心とした地域密着栄養サポートである。
相談窓口を出発点とする電話栄養相談は当初、都内の製品購入者に限定していたが、現在は全国を対象に、製品を購入していない人からの相談も受け付けるようになっている。購入している本人や家族からの相談のほか、ケアマネージャーや言語聴覚士、看護師などの専門職からの、担当している利用者の食事に関する課題や食品の選択などに関する相談も多いという。
地域密着栄養サポートには、主に「栄養支援型配食サービス」「お食事の見守りお届けサービス」「お食事のコーディネートサービス」がある。
栄養支援型配食サービスは昨年10月に開始した。「配食サービスを始めるためにいろいろなことを決めていったというよりも、厚生労働省の配食サービスのガイドラインに沿う形で行ったらどうなるか、という考え方でサービスを構成した」(蒲管理栄養士)。
サービスは1週間に1回、冷凍の弁当を届けることと、管理栄養士による栄養サポートがセットになっている。管理栄養士は弁当がきちんと食べられているかをチェックし、食べられていない場合は専門職に連絡をして、見直しの必要性などを検討する。厚労省のガイドラインでは、管理栄養士が関わるのは半年に1回、もしくは1年に1回と定められているが、ヘルシーネットワークつながるは月1回としている。支払いが1カ月単位なので、見直しが必要な可能性があるためだ。

栄養支援型配食サービスで利用者に説明を行うスタッフ
弁当だけに頼るのではなく、朝食は利用者自らが手作りできるようなレシピを載せた、朝昼晩3食分の献立を渡している。この献立をヘルパーが活用している例もあるという。単に配食だけでなく、見守りの要素もあるように感じられるが、蒲管理栄養士によると「日配の配食サービスは毎日届けることで見守りの機能を併せ持っているが、1週間分まとめてお届けすることと、栄養のサポートをメインに置いた配食サービスとしたことから、あえて『見守り』という言葉を使わなかった」そうだ。
0~100歳を対象に栄養サポート
見守りお届けサービスは常温の栄養補助食品や嚥下調整食、とろみ調整食品など、単品の提供がメインになる。利用者が希望する食品を提供するとともに、とろみの付け方や補助食品の飲み方など、使い方を説明する。その際に、5分程度の栄養相談がセットになっている。
基本的に補助食品で長期に保存できることから、原則、月に1回まとめて届けている。栄養支援型配食サービス同様、1カ月という単位にしているのは、それ以上の長期になると、利用者の状態が変わるため、補助食品などが適さなくなる可能性があるからだ。訪問の際に摂食の状況や医療機関の指導内容に変更がないかといったことをチェックして、翌月分の食品の提供を決める。「見守り」という言葉は、その意味で使っている。
お食事のコーディネートサービスは、電話栄養相談を対面で行うもの。1回の利用は30~120分で、30分単位で申し込む。コーディネートサービスで相談を受け、その結果、栄養支援型配食サービスに移行したり、見守りお届けサービスに移行したりするケースもあるとのこと。
電話栄養相談サービスの相談件数は、2017年に始めた当初は85件にすぎなかったが、18年は約1800件、19年は約2600件、今年は9月現在で約2000件に達している。このため、月・水・金は電話栄養相談に集中し、火・木で地域住民の栄養サポートを行うようにした。当初は2人体制だったが、配食サービスを始めたことで人手が足りなくなったことから少しずつ人数を増やし、現在は管理栄養士4人、栄養士1人の5人体制となっている。
一方、母子栄養事業は市の担当課が行っていたものを、今年度初めて外部委託してヘルシーネットワークつながるが受託した。対象年齢により3ステップがある「離乳食講座」と、妊婦・パートナーを対象とする「ママパパクラス栄養コース」の2つのコースがある。各講座の定員は30人で、参加費は無料。本来は対面で行うはずだったが、コロナ禍の影響により、2カ月遅れでオンラインでの実施となった。この事業を始めたことで、乳児やその両親への栄養サポートを行うようになり、高齢者や療養者だけでなく「0~100歳を対象に栄養サポートを行うこと」が新たな目標となった。
ヘルシーネットワークつながるが本格的に活動を開始して1年なので、まだ手探りの状態だという。今後については「まずは認定栄養ケア・ステーションに管理栄養士・栄養士がいることを知ってもらい、日野市で困った時にはヘルシーネットワークつながるに聞いてみよう、となればうれしい」と蒲管理栄養士は話している。